決意
五人の貴公子達は、かぐやの難題に応えるために方々に散っていたので、全員がかぐやに希望のものを——たとえ偽物だとしても——集めるのに三年もの月日が経っていた。
その頃になると、翁達やかぐやも都での生活に慣れ、三人で楽しく暮らしていた。
——かぐやが四度目の夏を迎えようとしている時、翁は満月を眺めながら涙を流すかぐやを見つけた。
翁は驚き、何があったのかと声を掛けると、何となく心細く感じたのだ、とかぐやは答えた。
翁は、何かあったのなら話を聞こう、私の大切な子の為なら出来る限りのことをしよう、と言うのでかぐやは涙を袖で拭いながら小さく、しかしはっきりと言った。
——私はもうすぐこの地を去る——
曰く、この世界の住人ではなく月の住人だという。
曰く、次の満月の時に月の都からお迎えが来るのだという。
曰く、それがどうしようもなく悲しくて嘆いているのだという。
翁は深く息を吸い、菜種ほどの大きさから私の背丈と立ち並ぶまで育ててきたかぐやを、とても大切に、とても愛しく思っていると告げた。
さらに翁はかぐやの目を見据え、かぐやは月に帰りたいのかと尋ねた。
かぐやは、月の都のことはほとんど覚えておらず、帰っても嬉しくない、それより翁達と過ごした時が楽しくて、別れるのはとてもつらい、と翁の手を取りながら言う。
翁はかぐやの手を強く握り返し、絶対に連れて行かせないと誓い、一緒に一晩中泣き明かした。
——その晩、かぐやが月を眺めながら物思いに耽っていると、塀を飛び越えて入って来る人物がいた。
かぐやは怪しく思い、咄嗟に手を叩いて水の刃を飛ばした。しかし、その人物は流れるように刀に手をかけ、水の刃を弾き飛ばしたので、驚いて様子を伺うと、聞いたことのある声が耳をついた。
その人物は帝だった。帝は久しぶりにかぐやの姿が見たくなり、誰にも知られずにここまで来たのだというので、かぐやは呆れてしまって申し訳ない気持ちも消えてしまった。
二人の間に少しの沈黙が流れた。
帝はかぐやの隣に腰掛け、どうしても宮仕えをしないのか、と問うと、はっきりと断るので、もっと高い位を翁に与えるならどうか、と再び問う。
かぐやは小さく笑って、翁がその位に着いた途端に死ぬだけです、と楽しそうに言った。
帝はやはり、とため息をついた。実はかぐやを都に招いた時から、二人は手紙のやり取りをしており、何度かこの提案をしていたが全て断られていたのだ。
もう時期月に帰らなければならないからだろうか、かぐやは普段なら言わない様なことを、帝のことを嫌ってるわけではないのだということを言った。
この国に生まれていたら召し使えるのも良いと思うが、そうではないので使えるのは難しい、とかぐやは月を眺めながら言った。
かぐやがこの国のものではないことや、後一月程で月に帰らなければならないこと。そして月に帰りたくないことを、手紙のやり取りで知っている帝は、同じく月を眺めながら、月から君を守れたら私と共に生きてほしいと告げた。
かぐやは少し間をあけて、期待してますと帝の方を向いて告げた。
———次の満月の夜、翁と帝が用意した二千をも超える兵がかぐやの家を守るように取り囲んでいた。
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