五つの難題 〜鼠・竜・燕〜


 ———『火鼠の皮衣』———


 右大臣阿倍御主人は前者二人と違って、心がまっすぐで、財産が豊かであったので、商人に火鼠の皮衣を探させた。


 半月ほど経った頃、商人は唐から大きな船がやって来たと言う知らせを聞きつけ、探している品物が見つかるかもしれないと思って港に向かった。


 船の主に珍しい鼠の皮はあるか、と尋ねると、火鼠の皮ならあると言うので、すぐに購入した。


 商人がその事を告げると、右大臣阿倍御主人は喜んで多くの褒美を取らせた。


 右大臣阿倍御主人はかぐやと結ばれる事が出来る、と大層念入りにめかし込んで、かぐやの家を訪ねた。


 かぐやが瑠璃で彩られた箱を開けると、群青に輝き、毛先が月光のように染まった立派な皮衣があった。


 右大臣阿倍御主人は、これは火鼠の皮

で燃えないのだと言うので、かぐやが炎を灯すと、激しく燃え上がり、瞬く間に灰となってしまった。


 右大臣阿倍御主人は気を落として帰ってしまった。


 ———『竜の頸の珠』———

 

 大納言大伴御行は、家にいるすべての人を集め、竜の頸に光る五色の珠を取りに行く、と言い準備を進めた。


 食料、絹や綿、銭などあらゆるものを船に乗せ、珠をとるまでは帰らないと言って出発した。


 船に乗って何日が経っただろうか、疾風が吹き荒び、海が荒れ、辺りが暗くなった。


 空が一瞬光ったかと思うと、船に向かって雷が落ちた。


 船に乗っていた者達は、神に祈り、無事帰れる事を願った。


 しかし、ただ一人空を睨みつける者がいた。弓をつがえ、大きく引き絞り、雷鳴に合わせ穿った。


 大納言大伴御行は、稲妻を撃ち抜いた。


 すると空は晴れ、風がぴたりと止み、海面は鏡の様に透き通った。


 大納言大伴御行は、竜とは雷のことだったのだと言い、よく無事だった、家に帰ろう、と告げ、家来達に褒美を与えた。


 家来達は大納言大伴御行の瞳が『竜の頸の珠』より美しいとさえ思った。


 ———『燕の子安貝』———


 中納言石上麻呂はある家来に、燕の子安貝を手に入れるにはどうしたらいいか尋ねた。


 家来は燕が子供を産む時に腹から出てくるのですと言い、その瞬間を人が見ると消えてしまいますとも言った。


 すると別の家来が、飯を炊く小屋の屋根に燕の巣があります、そこに足場を作り子安貝をお取りになったらいかがでしょう、と言うので、中納言石上麻呂は素晴らしいことだと言い、家来を二十派遣した。


 しばらくして中納言石上麻呂が様子を見に行き、子安貝は取れたかと問うと、燕が怖気付いて降りて来ないのだと言う。


 どうしたものかと考えていると、飯炊小屋の人が、一人が籠に乗り、持ち上げて網で掬うのがよろしいでしょうと言うので、中納言石上麻呂は良いことだと言い、その様にさせた。


 一人の家来が籠に乗り、吊り上げられ、巣の中を網で掬うが、何もありませんと言うので、中納言石上麻呂は下手に探すからないのだと腹を立て、自分が籠に乗った。


 燕をじっと待ち、燕が降り立つのに合わせ身を乗り出し、巣に手を入れた。


 何か平たいものを手に掴んだが、身を乗り出しすぎて籠から落ちてしまった。


 家来達は驚き、一斉に近寄った。中納言石上麻呂は子安貝を握った、と嬉しそうにするので、覗き込んだところ、手のひらには燕の糞があった。


 中納言石上麻呂は高いところから落ち、手に入れたのが燕の子安貝ではないと知り、息絶えてしまった。


 かぐやはその事を聞き、少し心を痛めた。

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