羅生門での再会
かぐやが鬼を封じてからしばらく経った頃、翁の家では宴が行われていた。
かぐやが大層大きくなったという事で、翁が祝おうとした。その話を誰かが何処からか聞きつけ、村中に広がり、気付けば宴が始まった。
広いとは言えない少し古い家に、沢山の料理と村の人が集まり、笛を吹き、太鼓を叩き、箏を奏でた。かぐやは人に、村に好かれていたのだ。
しかし、それは当然であった。孤立していた村の老人の話し相手になり、忙しい親の為に子供達の面倒を見て、誰も近寄らないような病人の看病をしていたのだから。
最初は皆、怪訝な思いを抱いた。急に年端の行かない娘が村に現れ、誰もがやりたがらない様なことを率先してやり、日々目に見える程早く成長していくのだから。
かぐやが村に馴染み始めた理由は些細な事だった。話し相手ができて元気の出た老人が、遊んでもらって懐いた子が、その親が、病気が良くなり健康になった人達が、かぐやのことを手伝い始めたのだ。
それからかぐやが村に受け入れられる様になるのは早かった。他の村人たちも手伝える事が無いか尋ね、かぐやの周りに人が集まり、村が活気付いたのだ。
気分が悪く、苦しい時も、かぐやを見るとたちまち消えてしまった。腹立たしいことも慰められてしまうのだ。
それはかぐやの容貌がこの上無いほど美しい事もあるが、それだけではない。心が綺麗なのだ。竹の様に真っ直ぐで、黄金のように輝かしいかぐやの所作や行動は、関わるものを虜にして止まなかった。
こうして三日の間、村人達が入れ替わり立ち替わり、宴が行われていた。
——三日目の朝、高貴な服を見に纏い、恭しい立ち振る舞いで、一人の女性がかぐやのもとへ現れた。
帝の使いであり、かぐやを都に迎え入れようというのだ。
村人達は皆喜び、あのかぐやが帝に見初められた、大変結構なことだ、都に行き姫になるのだろう、と口々に祝いの言葉を述べた。
かぐやは周囲の勢いに逆らえず、また、帝の命に逆らうわけにも行かなかったので、翁夫婦と共に行くのならと答えた。
使いの女性は、次の満月の日の朝にまた迎えにくるから、用意しておくように言い、去って行った。
———数日後、迎えの車が来たので、村の人達に見送られ、かぐやと翁夫婦は帝の居る都に向かった。
山を越え、橋を渡り、暫く移動していると、大きく立派な門が見えた。その門の上に満月が浮かび、一つの影を照らした。
——鬼だ。
そして、その門の上から大太刀を持った黒洞々たる鬼が飛び降りた。
大地は揺れ、鴉が舞った。かぐやはすぐに手を叩くが鈴の音は鳴らず、何も起こらない。
鬼は大太刀を振りかぶり、薙ぎ払った。その刃がかぐやに届こうとしたその刹那、金属のぶつかり合う、懐かしい音が響いた。
その男はそこにいた。
これで鬼と相見えるのは二度目で、一度目はかぐやに助けられた男が、今度はかぐやを助けたのだ。
かぐやはすぐにもう一度手を叩き、目の前に箏を創り出した。
一音、その箏を爪で弾くと、奏でた音が鬼に刺さった。
かぐやが弾く箏に合わせて、男は鬼を斬りつけた。
男一人では、以前の様に勝てなかっただろう。しかし、かぐやが箏を奏でるたび、鬼は動きを緩め、力を弱めた。
醜い鬼と踊り舞う、煌々とした男は天に味方され、とうとう鬼の首を地につけた。
———それから何処からともなく人が現れ、何処かに鬼を連れていった。
そうして、現れた人の一人が、鬼の首を落とした男をこう呼んだ。
——帝、と。
翁とその妻は驚き、頭を地につけた。かぐやが関わってはいけないと感じ取ったこの男は、この世で最もやんごとなき人物、都の支配者、帝であったのだ。
帝は、翁夫婦に頭を上げる様言い、丁重に迎え入れられず、手荒い歓迎になって申し訳ないと言った。
翁は相手との身分の違いに肝が冷え、心臓が捻じ切れそうであった。その上、帝がお詫びに、一部の人しか辿り着く事の出来ない官位を与えようというのだ。
翁の頭が真っ白なまま話が進み、かぐやと翁夫婦は、都の中心部に住むことになったのだ。
その話は都中に広がり、かぐやの姿を一目見ようと、あわよくば手に入れよう、妻にしようと、身分の高い人も低い人も、多くの人々が集まった。
帝に気に入られ、鬼をも倒す不思議な力を持ち、その上、容貌が美しい事この上ないという話を聞き、気にならない者はいなかった。
そうして、朝晩も問わず、垣根の隙間や塀の穴から覗き込む人は後を立たない。しかし、何日経っても、かぐやが現れる気配が無いので、志の低いものから順に来なくなってしまった。
——遂には、五人だけになってしまった。
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