最終話 オーシャンズ・クロス

 アルバが海魔に情を寄せているとは露知らず、海聖はバイクからクロカイリュウに乗り移り、長い胴部にひたすら斬撃を入れていた。

 肉を裂く度にクロカイリュウが激しく暴乱するが、鍛え抜かれた瞬発力と体幹で振り下ろされることなく、うねる漆黒の体躯を駆け抜ける。


——普通の斬撃じゃ死なないか。


 もっと深い——それこそ、胴部を一刀両断するような即死攻撃を与えないと。

 

「なら、このうねりを利用して……」


 肉を抉り取るようにまた一撃お見舞いすると、痛烈な咆哮が空気を震撼させた。

 荒波の如く体躯が激しくのたうち、海聖は空中へと投げ出される。

 その勢いに身を任せて空中で一回転し、体勢を整える。

 最後に自由落下と共に剣を構え、先ほど与えた裂傷に狙いを定めた。

 

「今楽にしてあげる」


 冷酷な死の宣告の後、全身全霊の力をもって剣を振り薙いだ。

 落下による斬撃の重みが増したことにより、太々とした胴部は真っ二つに両断された。

 クロカイリュウは最期に天を轟かせる勢いで叫呼し、絶命する。


 しん、と辺りが静寂に包まれた。

 一度周囲を見渡し、新たな脅威が迫っていないことを確認してから海聖は愛剣を鞘に収める。

 海面に浮かぶ漆黒のむくろに軽やかに着地すると、そこでアルバが退避していないことに気づいた。


「なんでっ!?」


 すぐにバイクに乗り、呆然と事切れたクロカイリュウを見つめる彼の元へ駆け付ける。


「真潮さん! 私は避難するよう言ったはず……」


 言い終える前に、海聖は驚きの表情に染めた。

 二度目の「なんで」が心の中で発せられる。


 眼前の青年は、薄水の双眸から涙を流していた。


 海聖の帰還に気づいたアルバは、我に返ってすぐさま頬を伝う雫を拭い取る。


「すみません。どうしても、この場を離れることが出来なくて……」

「何で、泣いてるんですか?」


 涙目が向けられていた先には、己が討伐した海魔がいる。

 彼がクロカイリュウの死を悼んで涙を流しているのだと容易に察せられた。


「海聖さん。僕は」

「まさか、海魔に情けをかけてるんですか?」


 黙り込むアルバに、海聖のかんばせは険あるものへと変貌する。


「だからさっき私に、海魔を恨んでいるのかなんていう意味不明なことを聞いたんですね」


 正気ですか? と、侮蔑の色を滲ませてアルバを睥睨した。

 海聖の鋭い視線を受けながらも、アルバは真剣な眼差しで本心を打ち明ける。


「……僕は、ずっと疑問に思っているんです」

「疑問?」

「はい。なぜ、海魔は問答無用で我々人間を襲うんだろうと」

「そんなの、奴らが凶暴だからに決まってるからじゃないですか」

「じゃあ、その凶暴性は一体どこからきているんでしょう」

「それは……生来の性分としか言いようがありません」


 一瞬言葉に詰まりながらも己の考えを口にした海聖に、アルバは「確かに、そう考えるのが妥当ですよね」と苦笑しながら頷く。


「他の賢者たちもそう主張しています。海魔は殺戮生物——つまり、彼らの本能そのものが獰悪なのだと。ですが、僕は海魔が単なる殺戮生物のようにどうしても思えないんです」

「どういうことです?」


 海聖は胡乱げに首を傾げた。


「海魔が襲う対象は何も全ての生物ではありません。何故か、を捕食しているんです」

「……!」


 海魔が他の海洋生物を喰い殺すという情報は、確かに聞いたことが無い。

 もしそうであれば、とっくに生態系のバランスが崩れている。


「彼らが兇悪な殺戮生物であれば、例外無くその他の生命体を敵として認知するはず。けれど、海魔は同じ場所に住む海洋生物を虐殺していない。寧ろ、人類だけを襲っている」


 まるで、人類を滅ぼせという命令を受けているかのように。


 神妙に呟いたアルバの一言に、海聖は息を呑んだ。


「……じゃあ、海魔を操っている何かがいるってことですか?」

「あくまで僕の憶測に過ぎませんが、恐らくは。それに、彼らを操作する外的要因が無かったとしても、約百年前に突如海魔が出現し始めたという不可解な歴史を見れば、やはり単なる海の魔物という概念だけで済ませることは出来ません」

「それは、そうかもしれませんが……」

人間こちらが危害を一切加えていないのにも関わらず、いきなり深海から姿を現わしたかと思えば容赦なく牙を剥く。生物学的な観点から言えば、理由も無く只々暴れ狂う個体は絶対に存在しないんです」


 全ての生物には、必ず意志があるのですから。


 アルバの熱弁は確かに一理あった。

 海聖も時折「確かに」と思いながら、今一度海魔とは何かを考えていた。

 だが、どうしても海聖にとっての海魔は、両親を始めとした無辜の民を喰い殺す魔物だ。

 その事実と怨嗟の情は拭えない。


 どんな理由や経緯があれ、人を貪り喰う捕食者に変わりはないのだから。


「真潮さんの考えはよく分かりました」


 でも——

 黒曜の明眸が温静な薄水の双眸を射抜く。


「だからといって、奴らに情けをかける必要はありません」


 少女騎士の剣幕に、アルバは思わずたじろいだ。

 伊達に海域長——ひいては最強の騎士としての称号を持ち合わせているのではないのだと、改めて思い知らされる。


「人々に仇なすことが奴らの本意では無かったとしても、これまで大勢の人間の命を奪ってきたことに変わりはありません。……私が招いた災厄とはいえ、両親を殺したのも正真正銘あいつらです」

「しかし」

「私たち騎士に屠られていく奴らをこのままずっと憐み続けるというのなら、真潮さん。あなたは今すぐに賢者をやめた方が良い」


 バディからの冷厳な指摘に、アルバは虚を衝かれた。

 何か言いかけようとしたが、上手く言葉が出てこず、二の句が継げなかった。


「騎士はあなた方賢者と一般人の身の安全を確保するために、賢者は人類を危機的状況から救うために存在し、互いの協力を不可欠としています。言い換えれば、海魔による人類滅亡を防ぐことが私たちに課された使命です」

「……はい」

海魔に情けをかける者は、いずれ現場に混乱を招く。あなたの憐憫や温情が仲間を殺してしまう前に、早く今の地位から退いてくれませんか」


 返す言葉が見つからない——そんな状況に陥りそうだった。

 だが、自分とて生半可な気持ちで賢者になったわけじゃない。

 ただ海魔に対する憐みを抱き、その死を悼むためだけに海上にいるのではない。


 アルバは伏せそうになった目線を何とか維持して、凛然と佇んではこちらを見据える少女騎士を見つめ返した。

 その瞬間、海聖は僅かに目を見開く。


「海聖さんの仰ることも理解できます。ですが、僕は賢者をやめるつもりはありません」

「あなたの甘い考えや判断が、守るべき人民を殺すことになってもですか」

「いいえ。僕が海魔の死を惜しむのは、彼らがまるで何かに操られているように見えるからです。彼らは決して、人を殺すために生まれてきたのではない。そもそも、破壊や殺戮という命題を課されて生を享受する命なんてありません」

「海魔が被害者だという証拠は無いでしょう」

「そうですね。しかし、これからその証拠を掴みにいきたいと思っています。僕が望む――人類と海魔が共存できる世界を実現するために」

「…………人類と海魔が共存?」

「はい」


 アルバが肯定すると、すぐさま自身の喉に鋭利な切っ先が向けられた。

 突如突きつけられた危機に硬直してしまい、身動きが取れなくなる。


「よくもまあ、肉親を海魔に殺された遺族の前でそんなことが言えますね」


 地を這うような低声が冴え渡った。


「海聖さ」

「黙って」


 十字剣が更に肉薄する。

 辛うじて絞り出した声も、その牽制で引っ込んでしまった。


「人類と海魔の共存、ね……。笑わせないでよ」


 冷え冷えとした海聖の憤怒に、アルバはきゅっと唇を引き結ぶ。


「人の思いを蔑ろにしているにも程がある。海魔に身も心もずたずたに引き裂かれた人たちが今どのようにして過ごしているのか、想像したことがありますか?」

「っ……!」

「大切な人や住むところを奪われた結果、残ったのは海魔に対する恐怖と憎悪、それから理不尽な現状への絶望だけ。被害者の人たちに、さっきのご高説を宣言してみなよ」


 あんたはきっと、非難や罵倒だけじゃ済まされない。


 いつの間にか敬語が取り払われ、痛烈な言葉の刃が己の心に深く突き刺さった。

 剣がゆっくりと降ろされたのが分かったが、そのまま喉元を突かれたような気がした。

 それだけアルバにとって、当事者である海聖の糾弾は心身を焼いた。

 

——彼女が怒りに震えることくらい、分かっていたはずなのに……。


 重い沈黙が両者の間を取り持っていた最中、


「あれあれぇ~、何だか重たい空気が流れてるネ」


 突然稚い少女の声が降りかかり、海聖とアルバは同時に声の主を見上げた。

 歳はまだ小学生くらいだろうか、腰の丈まである金髪を左右で括っており、こちらをじっと見つめるつぶらな瞳は夕焼けの色をしている。

 驚いたことに、可愛らしいベージュのワンピースを身に纏う彼女は、スクーターに似た飛行型乗用機に足を付けており、空中に佇んでいた。


「あっ、もしかしてお邪魔だったかナ?」


 こてんと可愛らしく小首を傾げる謎の闖入者に、海聖は警戒しつつ誰何すいかする。


「えっと、あなたは?」

汐見しおみセーラ!」

「セーラ……ちゃんは」

「うん、ハーフだヨ! お母さんがイタリア人で、お父さんが日本人なノ」

「あ、そう、なんだね。まだ何も聞いてないけど」


 屈託の無い無邪気な笑みで答えるセーラに、海聖はぎこちなく答える。


——この子も、イタリア人と日本人のハーフ?


 海聖は反射的にアルバを見た。

 彼もまた海聖の視線に気づき、動揺の面持ちを隠せないまま向き合う。


「いえ、全く知らない子です。僕も驚いていたところで……」


 二人が確認し合っていると、セーラは「ン?」とアルバに視線を移す。


「お兄ちゃん、もしかしテ……」

「え?」


 何かに気づき驚いた様子のセーラに、アルバは困惑を隠せない。

 海聖も少女の素性と今置かれている状況を呑み込めず、疑問符を浮かべるばかりだった。


「お兄ちゃんもイタリア人? それかハーフ?」

「そ、そうだよ。僕も君と同じ、イタリア人と日本人のハーフだ」

「へぇ~」


 セーラの口角が吊り上がり、


「ここにいたんだネ。〈〉」


 目を細めてアルバを見据える。

 先ほど見せていた無邪気な笑みとは違い、どこか愉悦と狂気に満ちた不気味な微笑だった。

 アルバと海聖はその変貌ぶりに身の毛がよだつ。


「〈太陽〉って、一体何のことだい……?」

「あれ? お兄ちゃん、何も知らないノ? おかしいナ、確かに〈太陽〉の気配がするんだけド……」


 僅かに震えを帯びたアルバの問いかけに、セーラは頬を人差し指で押さえて再度首を傾ける。


「お兄ちゃんはネ……」


 溌溂とした声音でそう言いかけた後、「やっぱりやーめタ!」と打ち切った。


「お兄ちゃんはたぶん、じゃないような気がするかラ」

「それって、どういう……」


 曖昧模糊とした発言にアルバと海聖が翻弄されていると、セーラはにやりと更に口の端を吊り上げ、海面に向かって右手を翳した。

 途端、月光照明弾の影響で煌々と輝いていた海が次第に元に戻っていく。

 弾けた月光が吸い込まれていくようにセーラの掌へと立ち昇り、球体となって彼女の手に収まった。


「照明弾が!」

「あの子は一体……!?」


 海聖たちが信じられないと言わんばかりに愕然としていると、セーラは乗用機を方向転換させて背を向ける。


「どれだけ科学技術が発達しても、自然の神秘はずっと消えなイ」


 神妙な呟きに海聖たちは終始疑問符を浮かべている中、セーラは振り返ってあどけない笑顔を見せる。


「そろそろ行かないト……。じゃあ、またどこかで会えるといいネ!」

「ちょっと待って!」

「セーラに構ってる暇は無いんじゃなイ? ほら」


 セーラが指さした方角には、数多の海魔が姿を現わしていた。

 謎の少女による謎の力によって月光照明弾が無効化されたことにより、海魔が海聖たちの気配を察知して深海から浮上してきたようだ。

 凄まじい速度でこちらに猛進してきている。


「チッ!」

「じゃ、バイバーイ!!」

「あっ……!」


 海聖が舌打ちすると同時に、セーラは突風のようにその場を去った。

 海聖もアルバも少女を引き止めようとしたが、今は彼女よりも海魔の対処だった。

 

——少なくとも十匹以上はいる!


 最強の女騎士でも、一人で同時に十匹以上相手をするのは多勢に無勢だった。

 その上月光照明弾も先ほど放ったものが最後で、新たな海魔の出没を阻止する手立てが無い。


「真潮さん、一旦ここから退きますよ。あの数では流石の私でも捌ききれない!」

「っ……分かりました!」


 海聖は煙幕を放ち、海魔が自分たちを見失っているうちに全速力で基地がある方へと退散した。


 何とか海魔を撒けたことに安堵しつつも、アルバとのわだかまりやセーラと名乗った少女の正体が脳内を席巻する。

 帰路は両者共に沈黙を貫き、それぞれ複雑に絡み合った今日一日の出来事を整理するのに必死だった。




  *****




「汐見セーラ……。その少女が、照明弾に蓄えられていた月光を全て吸収したと?」

「はい。何か、得体の知れない特別な力が働いているように見えました」

「なるほど。しかも、アルバ君を見て太陽と……彼から太陽の気配がすると、確かにそう言っていたのね?」


 聖の問いに、海聖と隣に立っていたアルバは頷く。


 眉間に皺を寄せる管区長に、海聖たちは固唾を呑んで次の言葉が紡がれるのを待った。

 関東師団基地へ戻った後、海聖とアルバは一度体を休めてから本部へと向かった。

 セーラなる謎の少女と、彼女が使用した超能力について聖に報告するためだ。

 騎士として多くの知識や経験を積んでいる彼女であれば、何か分かるかもしれない。


「……恐らく、その少女は〈星術師せいじゅつし〉でしょうね」

「星術師?」


 海聖が聞き返すと、聖は静かに首肯した。


「水星、金星、火星、木星、土星——そして、その五星よりも大きな力を持つとされている太陽と月。七星の力をそれぞれ操ることが出来る人間のことを、星術師と呼んでいるの」

「七星の力……。つまり、セーラという少女は……」

「ええ。聞いたところ、〈月〉の力を宿した星術師である可能性が高い」


 人智を超えた力を持つ存在に、海聖とアルバは息を呑む。

 セーラの正体が判明したところで、ようやく彼女が言っていた「太陽」という言葉の意味も掴めた。


「では、真潮さんは——〈太陽〉の力を司る星術師だというのですか……!?」

「彼女の言葉が嘘偽りない真実であればね」


 呆然と立ち尽くすアルバに、似て非なる二種類の黒瞳が向けられる。


「……全く身に覚えがありません」


 予想通りの返答に、海聖と聖は特段顔色を変えることなく静聴に徹する。


「両親から星術師について教わったことも無いですし、ましてや自分がそうであると言われたこともありません。それに、確証が無いのでまだ決まったわけではないにしても、仮に僕が太陽の星術師だとして、なぜあの少女が僕がそうだと見抜けたのかが分かりません。今日初めて、僕はあの子と出会ったというのに……」

「そうね。何にせよ、今回の事例は特殊で不明な点が多い。元々星術師に関する情報は極めて少ないから、私も詳しいことはよく分からないのよ。だから、こちらでも調査を進めておくわ」

「分かりました」


 海聖が顔を縦に振ると、


「他に、何か気になることや変わったことは無かったかしら?」


 聖がそう問うてきたので、思わず海聖はアルバの処遇について切り出しそうになる。

 だが、隣で俯いては混乱を隠せていない彼に、賢者としての素質を検討し直す必要があると意見するのは憚られた。

 今はこの件について触れるのは止めた方がいいだろうと、海聖はかぶりを振る。


「いえ、ありません」

「そう。ご苦労だったわね」


 敬礼し、アルバと共に管区長室を後にした海聖たちは扉の前で足を止める。


「僕は……本当に星術師なんでしょうか」


 弱々しい疑問が投げかけられ、海聖はアルバの顔を見上げた。


「それはまだ分かりません。ですが、もし真潮さんが星術師であれば、少なくともあの少女のように太陽にまつわる異能を使えるのではないですか? 例えば、日光を手の上にかき集めたりだとか」

「……そうですよね」


 アルバは己の掌に視線を落とし、自嘲気味に言う。


「今の僕に、異能を行使できる力量があるとは到底思えませんが」


 でも、と彼は掌を握りしめて力強い光を湛えた双眸を海聖に向ける。


「あの子の言動を察するに、僕は星術師と海魔には何らかの関係があると思っています」


 その関係を突き止められれば、海魔に怯えなくて済むようになるかもしれない。


 突拍子も無い発言に、海聖は目を瞠りつつも「なぜ、そう言い切れるんですか」と眉根を寄せる。


「確かなのは、セーラという少女が海魔の味方であるということです」

「あの子が、海魔の味方?」

「はい。もし、彼女も海魔を脅威と捉えているのであれば、わざわざ月光照明弾を無効化して僕たちに海魔を差し向けるような真似はしないでしょう」

「……言われてみれば、そうですね」

「もし仮に、星術師全員が海魔を擁護する立場にあるのだとしたら、彼女たちには海魔を守るというそれなりの理由があるはずなんです。それを解き明かせば——」

「あなたの望む、共存が叶うのではないか。そういうことですか?」


 反対の意志を持つ海聖が語気を強めて確認すると、アルバは少し居心地が悪そうに「はい」と頷いた。

 海聖は小さく嘆息する。


「……共存に対する私の意見は変わりません。あなたが海魔に対して抱いている感情も、受け入れることは出来ない」


 アルバが目を伏せたのと同時に、「でも」と海聖は彼のおもてを上げさせた。


「星術師と海魔に何らかの関係があるのなら、私も突き止めたい」

「海聖さん……!」

「勘違いしないでください。私は奴らを根絶やしにする鍵が星術師にあると思っているだけです」


 だから——

 海聖は一息吐いて、仕方なさそうに言った。


「調査や研究が要である賢者あなたを追放するのは、保留にしておきます」

「つ、追放って……」

「じゃあ、私は基地に戻りますので」


 それでは、と海聖は踵を返して回廊を歩き出す。


「海聖さん!」


 振り返ると、白亜の賢者はどこか嬉しそうにこちらに手を振っていた。


「改めて、これからもよろしくお願いします」


 とんでもない賢者にして愚者が相棒になったものだと、心の中で盛大に嘆息しながら海聖はまた一歩踏み出した。

 そんな彼女とは正反対の道のりをアルバは進む。


 


 多くの謎と闇を抱えた海で、騎士と賢者は出会い、交差した。

 黒白の十字架が背負う運命が導くのは、救済かそれとも破滅か——。

 その顛末に辿り着くまで、彼女たちはこれからも駆け抜けていく。




 群青に純白の軌道を描きながら。

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オーシャンズ・クロス ~漆黒の騎士と白亜の賢者~ 海山 紺 @nagigami

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