第二十二話 エレーナ合流からのフラグ構築


「え、ええエレーナです。よ、よろしく」

「あ、うん。アッシュ・レオフォードです。よろしくね」


 手を差し出して握手を待つと、エレーナは少しだけビクリと身体を震わせた後に、恐る恐る手を伸ばしてぎゅっと握ってきた。


 あったけぇなぁ。

 一方エレーナは酷く驚いた顔をしている。


「つ、冷たっ!?」

「え、うそ」


 ペタペタと顔を触るがそこまで体温に差があるとは思えない。


 まあ暖かく感じるってことは俺の手が冷たいってことなんだが……そんなに? 


 コクコクと頷いて、エレーナは手を放す。


「びっくりした……」

「前は気にならなかった?」

「前……」

「そう、ほらあの、仲直り? したとき」


 あの時結構抱き着いたり手を握ったりと、今思い返せばまあまあやることやっていた。精神年齢三十路だけど肉体年齢は6歳だから許されるよな! 


「……う」

「う?」

「あんまり思い出したくない」


 そう言って、エレーナは師の後ろに隠れた。

 そんなに嫌だった? 

 ごめんて。

 もうやらんからさ。


「そういう問題では無いと思うぞ、アッシュ」

「マジですか師」

「……父親に似たな」


 えぇ~? 

 父上、昔何やってたん? 


「有名な話だ……さて。今日からはエレーナも共同だが、何か質問はあるか?」

「はい。進行度も合わせるんですか?」

「ああ。久しぶりだから、どこまで成長してるのかを測らねばならん」


 たしかに、前見た時より全然強くなってたもんな。

 でもよォ……スタート地点が違い過ぎてぶっちぎられる気しかしねーよ。才能の差で圧倒するのやめてくれませんか? 適正があるだけで才能があるとは言われてないんだよね、俺。


「えへへ……負けないからね」

「こっちこそ。強くならなくちゃならんからな」


 死にたくないので。

 中途半端な実力ではくたばってしまうかもしれない。

 少なくとも戦争に駆り出されても死なないくらいの強さ、これは欲しい。同年代で最強格になりたい。そうすれば最低限クリアーだろ。


 そのためにもエレーナは乗り越えなければならない壁だ。


「そう焦ることもない」

「わっ」


 一人で考えてると、師がぐりぐりと俺の頭を撫でつける。


 ぐ、子供扱いされてるぜ。

 使用人のみなさんもこれまでのを反省するかのような怒涛の可愛がりを見せてくれている。やっぱ真摯に謝り続ければどんなこともなんとかなるってもんよ! (ならない)


「お前はまだ6歳。レオパルド卿が6歳の頃どんなことをしていたのか定かではないが、アッシュ程大人であろうとはしなかっただろう」

「大人になりたくないですけど」

そういうところだ・・・・・・・・。……なあ、アッシュ」

「はい?」

「お前は──……いや、なんでもない。気にするな」


 なんだよ、気になるじゃんか。


 師はそのまま離れた。


 この人こういうムーブ多いな。

【聖銀級】だし、普通なら知り得ないような話とか知識を持っててもおかしくはない。世の中を支配する支配層がいる、というのは現代での陰謀論におけるメジャー所だが、異世界だとそれを否定しにくいんだよな……


 軌跡シリーズ、ドラゴンクエスト、テイルズetc。

 ファンタジーRPGに黒幕は必須なのだ。

 つまりこの世界にも黒幕が要る可能性がある。

 なんてったって剣と魔法のファンタジー! 

 普通に戦争があるからダークファンタジー! 

 国土錬成陣とか警戒しといた方が良いかもしれない。

 闇魔法使いが筆頭になって戦いをおこした、最悪な情報だな。そりゃ父上も嫌な感じはするだろ。


 それなのに送り出してくれたのは本当に感謝しかないぜ。


「……アッシュくん」

「んお?」

「あげないからね」

「……え、何の話」

「いーっ」


 そう言って再度エレーナは師にくっついた。


 えぇ……

 なんやねん。

 こちとら転生者様やぞ! 

 精神年齢三十路近くの転生者様に逆らおうってのか!? 

 ガキが……舐めてるとペロペロするぞ。

 変な電波受信したな、カットカット。


 苦笑しながらエレーナの頭を撫でる師。


 普通の親子だなぁ……

 これが数日前まで俺の所為でこじれてたってマジ? 


 エレーナ曰く、母親の顔に泥を塗るのがわかってて、これ以上頑張ってもどうしようもできないと思ってしまったらしい。その原因は俺なんですけどね、初見さん。


 銀髪美人と銀髪幼女の親子愛にほっこりしていたら、何とも言えない表情で師が見ている事に気が付いた。


 そのタイミングでコンコンコン、と扉がノックされる。


「どうした」

『奥様、お客様がお見えです」

「客? ここに?」


 客人は珍しいような気がする。


 だってここ山の中だぜ。

 師がここにいるってことをそもそも知らない人の方が多いんじゃないだろうか。それなのに訪れてくるとは。


「今行く。どこだ?」

『玄関でいい、と仰っていましたので、そちらでお待ちして頂いています。お名前は────』


 名前は流石に聞こえないように配慮したが、それを聞いた師の表情は、強張っていた。


 まるで、信じられないと。

 打ち震えるそれを、俺は見逃さなかった。


「な…………わかっ、た。すぐに行く」


 その場で取り繕うように顔を手で覆った。

 エレーナからは見えなかった、と思う。

 これまでおよそ2週間は世話になったけれど、師がそんな表情をしたのは初めてだった。


 ……俺が何か出来る様な話では、ないんだろうな。


 さ、鍛錬鍛錬。

 頑張って強くなる、以外に俺が出来る事など一つもないのだ。


 そうだ。

 だから気にする必要はない。

 無駄だから。

 わかってるだろ、アッシュ・レオフォード。

 お前は無力で、何かに首を突っ込めるほど優秀じゃない。


 もう天才じゃないんだ。


 そうだ。

 ……そうなんだ。

 

 胸の奥が少しだけ、痛んだ。

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