第4話 災厄対策する災厄

 会場の講堂についた俺達は、円卓に座って会議の始まりを待っていた。

 ここには俺とエレノアも含め6人が出席している。


「うむ、皆集まっているようじゃの。遠路はるばる足を運んでもらって感謝するぞ」


 俺の隣に座っている老人が、割りとどこでも聞くようなことを話す。

 この人はレスター大司教。

 このアストリア教団で、大体二番目くらいに偉い人物だ。

 裏表のない普通に良い人で、俺もこの人については特に警戒する必要もないと思っている。


「わしはレスター、今回の議長を務めさせていただく。さっそく話を始めたいのじゃが、この中にはなぜ自分がこの場に呼ばれたのか、不思議に思っている者もおるじゃろう」


 ここには国トップなどではなく、中途半端に身分のあるような人間が集められている。

 マナの枯渇問題に関する会議に、なぜこの面子が招集されたのか。

 普通は疑問に思うかもしれないが、俺は全く思っていない。

 なぜなら、はあるルートでこの会議が開かれた理由を知っていたからだ。


「まぁそれも含め、本題については彼に説明してもらおう。シャウラ殿、お願いできるかの?」


 大司教の声に、シャウラと呼ばれた男は席を立った。

 男とは言ったが長い髪と華奢な身体に女みたいな顔、ぱっと見ではとても男には見えない。

 それに加えて目にピエロみたいなメイクをしているから、本当に何を目指しているのか分からないルックスだ。


「勿論、早く話がしたくて堪らなかったんだ。ボクはシャウラ、エクリプスで科学者をやっている。今日、キミ達をこの場に集めるよう選んだのはボクなんだ」


 エクリプスとは、アストリアと並ぶ四大国の一角であり、国全体が巨大な研究機関という一際異質な国だ。

 大抵の技術と厄介事はそこで生まれると言われている。


「実はうちでちょっと厄介なことを見つけちゃってねぇ。何で見つけちゃったかなぁ」


 シャウラはそう言うと面倒そうな顔をして天を仰いでしまった。


「あ、あの!私はアストリア教団の巫女をしているエレノアと言います!その厄介なことって何ですか?」


 言葉に詰まったシャウラにエレノアが問いかける。

 エレノアは普段からやたらマナ問題に関心が強く、今回の会議にも前のめりだ。


「うん。マナの枯渇はすっかり環境問題の代表みたいになってるけど、その一方で年々マナの含有量が不自然に増えている場所を見つけちゃってね」

「マナが、不自然に……?」


 ああ、それも俺が張り切って吸い上げ過ぎたせいだろうか……。


「アストリア領にある隔離域、聖域と呼ばれている場所だよ」


 聖域。


 そこはまさに俺が眠っている場所だ、ドンピシャ過ぎて乾いた笑いが出てくる。

 人が滅多に近づかない隔離域でひっそり身を隠していたというのに、ここに来て注目の的になってしまった。


「そうなんじゃ。このままではアストリアが何らかの方法でマナを独占しようとしているのではと、有らぬ疑いをかけられてしまう。マナ問題はもはや世界の問題じゃからな、こうして4カ国を交えて話し合いの場を設けたのじゃ」


 世界的なマナ不足が叫ばれる今、特定の国がマナの独占を企んでいるとなれば、それはもう戦争が始まってしまっても仕方ないレベルの話だ。

 それくらいマナの枯渇は深刻な問題となっている。

 無論、俺のせいで。


「ちょっと待ちなさいよ。だったらもっと専門家とか呼べばいいじゃない、何で私達を集めたのよ?」


 すると、今まで黙っていたエトワール帝国の使者が声を上げた。


「誰、キミ?名乗ってから発言して貰えるかな」

「っ……ミラよ、ミラ!エトワール帝国騎士団の副団長よ!」


 彼女はミラ。

 エトワール帝国の所有する騎士団の副団長に、最年少で就任した才媛だ。

 その剣技は確かで、国境を越えてその名を知る者も多い。


「まあ、誰かは知ってるんだけどね。ボクが呼んだんだし」

「……あんた、何で初対面でそんな感じなのよ」


 おちょくるようなシャウラの言い方に、ミラは口元を歪めてぐぬぬとなっている。


「ボクはエクリプスの理事会から、聖域に何があるのか調査する命を直々に受けた。アストリア領での話だから、そちらの大司教さんに許可を貰いに行ったんだけど、その時に他の国にも協力してもらった方が良いって話をしたんだ。仲間外れにしたら、何されるか分からないし。だから、各国のマナの扱いに長けた人、戦力になりそうな人をボクが選んだ」


 シャウラが事の経緯をつらつらと説明し終わると、最後の使者が納得した様子で口を開いた。


「はぇーそっかぁー。だからスピカが選ばれたんだねー。スピカはミーティア最強の魔女だからねッ☆あ、スピカはスピカって言うんだ、よ・ろ・し・く・ネ☆!」


 自分の名前を連呼するその少女は、この場で間違いなく一番場違いな存在だ。

 魔女が支配する魔法国家ミーティアの代表は、この派手な服装と奇っ怪な言葉遣いをした魔女っ子だ。

 ミーティアは一番魔法が発達した国だから、マナの消費量も世界一だ。

 マナの問題となればミーティアを省く訳にもいかないだろう。


「成程、ですから私のような一司教でも呼ばれたという訳ですか」

「フフフ。キミが世界で唯一マナを出し入れできるってのは、エクリプスにもちゃんと届いているからね、シリウス司祭」

「司教です」


 俺もそろそろ何か言っておこうと、相槌程度の発言はしておいた。


「で、そこの巫女様は最近、マナに関わる災厄のしているんだよね?きっと今回の件とも関係ありそうだ。嫌だとは思うけどボク達に付き合ってもらうよ、ね?」


 災厄の預言と聞いて、エレノアは咄嗟に俺の反応を伺ってきた。

 俺は別に構わないと頷いてみせた。


「……は、はい!私も教団の巫女として、必ずお役に立ってみせます!何なりとお申し付けくださいっ!」


 エレノアが背筋をピンと伸ばして、真っ直ぐな瞳で答えた。

 それにしても、彼女は何でこんなにやる気満々なのだろうか。

 俺は どうにかしてやり過ごしたいのに。


「……と、言うことじゃ。諸君ら5人には聖域の調査を極秘裏に行ってもらい、マナが集約されている原因を突き止めてもらう。なお、この件はデリケートな問題じゃからの。はっきりしたことが分かるまでは他言無用じゃ、武運を祈っておるぞ!」


 そう言って、ざっくりと内容まとめた大司教がこの場を締めた。

 端的に言って最悪の状況だ。

 111年のラスト1年に、まさかこんな核心を突きそうな事態になってしまうとは。

 だが、不幸中の幸いと言うべきこともある。

 それは、今回の調査メンバーのシャウラ、ミラ、スピカ。


 3


 副端末は主端末であるシリウスとは違い、基本自我を持ってオートで行動するが、こちらから命令を出したり、やろうと思えば身体の主導権を奪うこともできる。

 さっきまで何も知らない風に会話していたが、俺達4人は全員情報を共有できる。

 知識を身に着けたい、剣術を学びたい、魔法を使いたい、男の娘になりたい、女騎士になりたい、初恋が魔女っ子だった……。

 そんな思いが募って暇つぶしに活用していた副端末達が、こんな形で役に立つと思いもしなかった。

 まず、シャウラがエクリプスの理事会から指名を受けられたのがラッキーだった。

 そのおかげで、他の端末達も適当に理由をつけて巻き込むことが出来たのだから。

 つまり、これから俺がやるべきことは、星喰いの核心に触れないよう調整しながら聖域の調査を進めること。

 そして、4人の端末達を駆使し、エレノアを上手く丸め込みながら1年間逃げ切ることだ。


 

 

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星喰いの災厄 ~災厄に転生して110年、もう少しで完全体になれそうなのに何か最近バレそうになってます~ かに道楽 @kani_draak

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