希望戦機 ホープフル・フューチャー PV2 「ルーキーのホープ」
ホープレスの格納庫で教練を受けた新兵たちが興奮気味に雑談している。
機体ハンガーに収まったホワイト・リッパーから降り立つ、パイロットスーツ姿のフユがヘルメットを外すと、艶やかな黒髪が広がった。
パイロットスーツの肩には、時計草の花のシンボルが刻まれている。
フユ・ホープフル・フューチャー、18歳。14歳でホープレスに乗った彼女は、ノスタルジア郷愁艦隊との戦争に置ける英雄であり、同時に宇宙開拓同盟のプロパガンダに引っ張り出されるアイドルである。
「フユ・ホープフル・フューチャー少尉。オレ、絶対に貴女にふさわしい男になってみせますから見ててくださいね! シミュレーターのスコアは……同期ん中じゃナンバーワン、なんですよ」
そんな彼女の前に飛び出したルーキーの一人……フォレスト・エステバリスドン。これ以上ないほど過剰な芝居臭さを伴って、ダンスの誘いでもするように手を差し出す。
「エステバリスドン訓練兵。そう言う台詞は実戦で生き延びてからにしなさいよね。わたしはスコアで贔屓しなからそのつもりで」
差し出された手に少しだけ眉を寄せ、淡々とした口調で返すフユ。
手早く整備班と打ち合わせを行いながらその場を去っていく。
「見てろ……絶対モノにしてやる」
小柄な背中で揺れる黒髪を目で追いながら、ルーキーは……フォレストは、差し出した手を下ろして握りしめた。
◇
「フユちゃん、モテモテだね~さっきの彼、なかなか優良物件じゃない? 顔もイイし、地上のお偉いさんの親戚よ?」
ブリーフィングルーム。
端末をいじる鮮やかな赤い髪の女性パイロットが、隣に座るフユに話しかける。
アカネ・スタンドエッジ――フユの僚機を務めるエースである。
「シミュレーター通りに敵が動いてくれれば誰も苦労しないわよ……特に、アイツはね」
うんざりした口調で答えながら、フユは配属された新兵たちの資料に目を通していく。
「フユ、ちゃん……」
僚機をつとめる彼女は、フユの横顔を伺って小さく切なそうにつぶやいた。
フユは気づいているのだろうか。”アイツ”のことを口にするとき、その瞳に特別な輝きが宿ることを。
◇
『う、うわああ!! 助けて……助けて!!』
ホープレスのコクピット。ヘルメットの中で顔からでる液体をすべて出しながら、フォレストは必死に叫んだ。
訓練上がりの新兵でも難易度の低い護衛任務は、突如現れた郷愁艦隊によって混戦状態へ陥っていた。
練度と経験の不足により足並みが乱れた小隊とブラック・リーパー一機。
残念ながら、その戦力差は火を見るより明らかだった。
フォレストの機体の背後にぴったり貼り付いた黒い死神。いたぶるように一本ずつ手足を鎌で刈り取り、同時に左手から精神苦痛を引き起こす干渉波を流し込み続けていく。
『ほーれほれ♪ もっと新鮮な悲鳴、ウチに聞かせて~や、期待のルーキーなんやろ?』
ノスタルジアの声はフォレストには届いていない。彼の意識はノスタルジアが見せる幻――幼少期に外出先で親とはぐれ、泣きながら歩き回った末に危うく車に轢かれかけた記憶を掘り返し、そのとき感じた恐怖を何倍にも増幅させた悪夢の中に埋没していた。
『シザー10!
戻ってきなさい!』
切り裂くようなフユの通信が鼓膜を叩き、白い翼を広げた機体がブラック・リーパーを払いのける。ホワイト・リッパ-のホープ・ドライブから放たれる強力な波長が、ノスタルジアの干渉波を遮断しフォレストは正気を取り戻した。
『フユ、さん……おれ……おれは……』
『上出来よ、アイツと――郷愁の死神と出くわして正気でいるだけ上出来。後は任せて後退しなさい!』
そのまま、ホワイト・リッパ-はブラック・リーパーに刃を叩きつけ、新兵たちから引き離す。
『ずいぶん活きのええ悲鳴やったなあ、さっきのルーキーくん。フユちゃんのコレなん? 妬いてまうわぁ~』
機体の左手の小指を器用に立たせる死神。
『うちの部隊の
英雄ともてはやされるだけの実力は四年たった今でも他の追随を許さない。
天使の機体は、幾度目かの死神との応酬に飛び込んだ。
『お疲れさま、新人クン。よく頑張ったね』
アカネは満身創痍のフォレストのホープレスを抱え、スラスターを吹かして母艦に帰投を始めた。
モニターの中で小さくなっていく、激しく交錯する黒と白のホープレスを見つめ、そっと口を開く。
『相変わらず、ノスタルジアの前だとイキイキしてるなあ、フユちゃん』
『え……?』
ぐったりとコクピットでうなだれながらも思わず疑問を口にしたフォレスト。
彼に聞かれていることを忘れたように、アカネは溜息混じりに呟いた。
『ほんとうに……妬いちゃうよ』
新番組『希望戦機 ホープフル・フューチャー』予告 地崎守 晶 @kararu11
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