第1話 恋してる③

その意図を聞く前に、彼は全体へと向き直る。


「いやー、ここで天使でてくるのもアリかなって!あえてだよあえて!」


後頭部に手を当てて、戯けたように笑い飛ばす。


「絶対嘘だろ!」「間違えただけだろ!」なんてツッコミに、「あ、バレた?」なんてまた笑ってる。


(…怒ってないの?)


それもわからないまま、先生の次、の一声で授業再開となった。

けれどその後も“angle”が出るたびに、彼は天使ネタでからかわれ続けた。


***


「はぁ…。やってしまった…。」


情けなさに盛大なため息をつく。失態の大きさに食もあんまり進まず、お弁当箱の中の卵焼きを箸で突いて弄ぶ。


「まーだ気にしてるの?」


机を合わせて向かいに座る、呆れ顔の幸(さち)。

クラスメイトで、親友だ。


「だってさ…私のせいであんなにからかわれちゃってさ。」

「いいじゃん、ウケてたし。」

「そういう問題じゃないでしょー。」


うじうじグチグチとしている私を見て幸はニヤリと笑う。


「問題はせーっかくポイント上げようとしたのに、恥かかせちゃったことだもんねー?」


「ちち、違うって、そんなんじゃなー…」


勢いよく手を振って否定する。幸は相変わらずニヤニヤと笑っていた。


「さーさき、ほい。」


動揺して立ち上がった瞬間、急に真横から手が伸びてきて、呑気な声とともに私の机に何かを置いた。


「?」


見るとそこには、缶のココアとプリン。


驚いて振り返ると、パンを抱えた人物は「ノートのお礼。」と笑って男子グループの中へと歩き去っていく。


(怒ってない、んだ…。)


しかも本当にココアもプリンも買ってくれているし。

ココアの缶に触れると、暖かくてじんとする。


多分彼にとっては、これは別段特別なことではなくて。

…なんの裏もないんだろうけど。


明日から英訳はちゃんと見直そうと思った。







佐々木 香乃(ささき かの )16歳。


クラスメイトの梶 悠仁(かじ ゆうじん)に、恋してる。

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