第2話 私の好きな人。②

高校に入学してから3ヶ月ちょっと。

恋心を抱くには、早いのか遅いのか。


ひとつだけわかるのは、私にとっては充分すぎる時間だったってことだ。


「ねー、佐々木。」


つまらない現国の授業。無声音の本当に小さな声だったけど、好きな人が紡ぐ自分の名前を聞き流すなんてことはしない。


「見てコレ。超傑作。」


得意げに梶が自分のノートを差し出してくる。そこにかかれていたものを見て、私は思わず噴き出しそうになった。


「俺的にはさ、この生え際の具合がめっちゃ似てると思うんだよねー。」


指を指して嬉々として説明している梶。珍しく寝てないどころか真剣に授業を聞いていたと思ったら、現国の先生の似顔絵を描いていたらしい。

お世辞にもうまいとは言えないけど、確かに的確に顔の特徴を押さえている。


(ばか、本当にばか。)


「ちょっと、授業中になにやってんの。」

「なんかふと描けそうな顔じゃね?って思ってさ。

えぇー、この作者はァー…ですねェ。」


あくまで小さい声ながら、ノートを動かしてあたかも絵が喋っているかのように口真似をし始める梶。特徴的なクドイしゃべりかたもそっくりだ。


「いきなりモノマネしないで。笑うから!」


笑いを堪えるために口をきつく閉じたり、手で覆ったりする。

それに気を良くした梶は、悪戯っぽくニヤリと笑って先生の言葉をおうむ返ししている。


わたしの腹筋は小刻みに震えて崩壊寸前。

声を上げて笑うわけにもいかず息が苦しい。


「よし、次誰にする?校長とか?

うお、あの禿頭の再現難しいわ。」


本当にバカ。アホ。

どうしたらそんなこと思いつくんだろう。


梶は真剣な顔でノートと睨めっこ。普段は授業中大体寝ているのに、今日は真面目な授業態度に見える。


先生、騙されないでください。

こんな風にしているけど、やってることは勉強なんかじゃなくて、すごくふざけたことなんだから。


なんてことを考えながらも、バカやってる梶から目が離せない私は。


あと10分で終わってしまう授業が、もっと長引かばいいと思っている私は。


梶以上の大馬鹿者なのかもしれない。


私の思いも虚しく、終業を告げるチャイムが鳴った。

梶はそれにも気付いていないのか、無視しているだけなのか、依然としてノートと向き合っている。


授業、終わったよ。とりあえずそのことを伝えようと、梶の肩に手を伸ばした時。


「えっ、何それ。」


梶の前に座っていた女子が振り返った。

多分何気なく振り向いただけなんだろうけど、予想外に目に入った芸術的な似顔絵に、声を掛けずにはいられなかったのだろう。

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