だって恋だもん。

@chiyuki_lovestory

第1話 恋してる。①

少女漫画やドラマみたいに、


目と目があった瞬間から。

初めて会話した時から。


恋に落ちることも、運命的な何かを感じることも、この世界では稀なことで。



何でもない日常に、変化を与える「何か」はないかって、願ってまたいつもを繰り返す。

それが積もり積もって、君と私の毎日が重なる日が来るといいなって漠然と願いながら…今日も。


***


4時間目の始業10分前、1番後ろの出入り口に1番近い席の私の隣で、苦笑いが漏れ聞こえた。


「やべー、今日当たるの忘れてた…。」


真っ白なノートを広げて、どうするかと後頭部を掻いている。ふと、私の手元にある文字で埋まったノートをさりげなく盗み見ると、態とらしいくらいの満面の笑みで私を見た。


「佐々木さん?お願いがあるんだけど…。」



(…きた。)



いつものバカに明るい彼とは違って、頼りなく控えめな口調とこびを売るような笑顔。ヤツの頼み事があるときの態度だ。


心の中で小さくガッツポーズするも、一切気取られないように注意しながら「魂胆はわかっているけど、そう簡単には頷かないよ」とでも言いたげに目線だけを彼に向ける。


「何?ノートなら見せないよ?」

「え、何でわかったんだよ。」


「わかりやすすぎるんだよ」と心の中で呟くけど、言えない。


「…まぁいいや、それなら話は早い。ノート見せてください!」



見透かされて驚いていたのも束の間、開き直って勢いよく頭を下げてきた。綺麗な90度、右手はノートを受け取るためにこちらへと真っ直ぐ伸びている。


「嫌だよ。この間も貸したばっかりじゃん。」


姿勢の良さにちょっと笑いそうになるけれど、そこは堪えてノートを抱える。


「そこをなんとか!お願いします!」

「山内とかに借りたら?」

「え、やだよ。アイツの英訳なんか信用できねー。」



お辞儀の体制のまま上げた顔は、真顔。


「おい、聞こえてんぞ。」


ちょうど教室に入ってきた山内が、彼の差し出していた手を軽快に叩いて通り過ぎて行った。



「盗み聞きかよ!つか何今のハイタッチ!…いやロータッチ?」


もう自席についている山内に大声でツッコミを入れる彼。


「いや、そこに手があったから。」


アホらしいやりとりに、クラス中がまたやってるよ、なんで笑い出す。

釣られて噴き出してしまった私の息を捕らえると、彼は目を輝かせてこちらを振り返った。


「何、ノート貸してくれる気になった!?」

「いや、ならないし。」

「なんだよもー!」


思わず笑ってしまった失態を誤魔化すように咳払いしてまた真面目な表情に戻す。彼は作戦を変えることにしたのか、腕を組んでしばらく考えたあとまた私に向き直った。

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