第4話.ミンチの奥義

 閃光――私の全身の皮膚感覚が曖昧になる。


「なっ……自爆したのか……?」

「……よく見よ、まだ生きておる」

「へ、陛下、ではまさかこれが……」

「ふ、ふははははは!! このような固有スキルを持つ勇者は初めてだ!!」


 私のミンチを見たシルヴィオ誘拐犯――多分魔王の側近であろう魔物の戸惑いの声に、魔王が愉しそうに笑う。そして私は吼えた。


『ゴラァァァッ!! 覚悟しろよ!!』

「そ、その状態で喋るのか貴様ッ!」

「ふはははははっ!! 愉快、愉快!!」


 うぞうぞ動きまくり、私は魔王と側近の方へ進む。


「久々に楽しませてもらった! 燃えよ、そして死ね勇者!!」


 火球が飛んでくる。


『残念だったなァッ!!』


 ミンチ状態の私は無敵! なにせミンチだからな!! どんな魔法も効かない、物理攻撃も効かないんだからな!! チートミンチじゃ恐れおののけ!!


 ジューシー焼き挽き肉になると思ったか?? ふははははは馬鹿め!!!!


 縦横無尽に這い回るミンチ。その肉片一つ一つの前に小型の魔法陣が展開。星の魔法の光線を放つ、放つ、放つ。


 ふははははは!!

 この姿でも魔法が使えるようになったんだよすげぇだろ!!!!


『オラァッ吹き飛べ!!』


 舞い上がる埃に埋め尽くされる視界。ぼろぼろになった広間に私の哄笑が響き渡る。


『そしてっ、これがミンチの奥義!!』


 視界の悪い中をスピーディーに進み、ミンチは魔王と側近の体に這い上る。


『窒息しやがれ魔王ッ!!』


 これは初めてミンチになったとき、シルヴィオが「これでどうやって敵を倒すんだ」と呻いたときにテキトーに言った「鼻と口を塞いで窒息させる」の実践である。


 魔王は私のミンチを飲み込もうとしたり、掻き出そうとしたり、魔力の波動で吹き飛ばそうとしたりと、頑張っているが無駄無駄ァッ!!


「んぐっ、ぐぐ……!!」

『オラァッピーねぇ!!』


 魔王がガクッと膝をつく。よし、もうすぐ私の勝ちだぞ!! 勇者とは思えない勝ち方だけどな!!


「んぐぐ、ぬぅぅっ……!!」

『むっ! まだやるか!!』


 呻いた魔王が魔力を集めて、バキボキ音を立てながら変身し始めた。


 角が伸びて、体が一回りほど大きくなる。全身を覆う鎧は肌にくっついてまとめて変身するようだ、ドラゴンの擬人化みたい。


 とても硬そうだ。


 ミンチを強風を纏う爪でかじって剥がし始めたので、私は更なる必殺技を繰り出すことに決めた。


『外がいくら頑丈でも、生物である以上内側は柔らかいもんだよなァッ!!』


 鼻や口を通って、魔王の喉奥へ。暴れるのを無視して食道を滑り降りていく。ミンチが心臓の鼓動を一番大きく感じたところで動きを止めたら――――



『――ミンチ・エクスプロージョンッ!!!!』



 内側から爆ぜる魔王と側近。






 こうして魔王は討伐されたのだ!!!!




――――――




 ぶっ倒れて死にかけているシルヴィオに、こいつから習った治癒の魔法をかけていく。


「シルヴィオ、シルヴィオ、蘇れシルヴィオ」


 でも、かけるだけだと心もとない気持ちになるから適当に名前を呼んで「蘇れ~」と繰り返してみた。

 長いまつ毛が震えて、目蓋が持ち上がる。薄い青色の目がさ迷って、すぐに私を見つけた。


「っ、うる、せぇクソ勇者……!」

「おっ、起きた。元気そうだねクソ神官」


 死にかけから回復して最初のやり取りがコレは、もうパーティー解散決定でしょ。


「魔王、倒したよ」

「一人で、か……?」

「当たり前でしょ。ふたりぼっちの勇者パーティーだぞ」

「……まさか、追いかけてくるとは思わなかった」


 え、と口を噤むと、シルヴィオは気まずそうに目をそらす。


「確実に罠だった。実際お前は単身、魔王と戦うことになったわけだし……それに、お前、俺のこと嫌いだろう」

「うん」

「……即答するんじゃねぇ」

「だから見殺しにすると思った?」


 そう言うと、シルヴィオは更に気まずそうな顔になって小さく頷いた。


「あのね、現代日本人の倫理観舐めるなよ」

「……まともな倫理観があるやつは、魔王を内側から爆殺したりしない」

「…………そ、そうかな」

「ミンチになって高笑いしたりもしない」


 もしかして、瀕死でも私の戦い、聞いてた?


「………………なんか、ごめん」












 ま、こうしてミンチになる系勇者の私の尽力によって世界は救われたってわけ。


「魔王討伐しても帰れねぇのかよぉぉぉ!!」

「帰還陣はねぇって最初に言っただろ」

「混乱してるときに結ばされた契約はクーリングオフできるでしょうがぁぁぁ!!」

「訳分からないこと言ってねぇで働け」

「人権がねぇァァァア゛ッ来ないでぇぇぇっ!!」


 そして私は相も変わらず今日もミンチになるわけだ。





 《完》


 最後まで読んでくださりありがとうございました!

 少しでも笑いがこぼれるようなことがありましたら嬉しく思います。


 コメント、☆、レビュー等いただけますと幸いです!!

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ミンチになる系勇者と暴言系神官のふたりぼっち魔王討伐パーティー~調子に乗んなよイケメン、ミンチになっぞ??~ ふとんねこ @Futon-Neko

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