第3話.相性最悪勇者パーティー(メンバー2名)

 旅に出て半月、ようやく魔物の領土に到着である。


 ちなみにパーティーメンバーは。



 前衛後衛、何でもござれの私、ミチコ!!


 衛生兵と時々魔法使い、クソ神官シルヴィオ!!



 以上!!!!



 ――そんなことある????


『あるんだなこれが……』

「ミンチの状態で喋んな」

『溜め息くらいつかせろ』

「どっから息吐くんだよ……」


 先程、魔物との戦闘で爆ぜちゃったから、今の私はミンチの姿。呼吸苦はない。


『まさか私がミンチなばっかりにメンバーが逃げるとは……」

「喋りながら人に戻るんじゃねぇ……」

「戻ろうと思って戻ってるわけじゃないんだよね。危機が去ると戻るっぽい」


 うぞうぞ寄り集まったミンチが私の形になって、瞬きの間に完全な人間に戻る。シルヴィオは溜め息をついた。


 そうなのだ。


 王国出発時には、王国の精鋭たち――例えば剣聖と呼ばれるおっさんソードマスターとか、弓神の称号を持つイケメンアーチャーとか、ゆるふわおっぱいのつよつよ魔女っ子とか、生ける要塞おばあちゃんタンクとか、結構な人数がいたのよ。


 王国が誇る一騎当千の精鋭なのに、皆、最初の戦闘で私が弾け飛んだら逃げたのよ。


 軟弱ッ!!!!


「今頃、勇者は偽物で、ミンチになる魔物で、魔王と協力して世界の人々をミンチにすべく魔王軍に参加して、シルヴィオもミンチになったと思われてるんだろうな……」

「ぶつぶつ言ってねぇで行くぞ」


 そんなわけで、寂しく相性最悪の二人組による魔物領攻略がスタートってわけ。








「――そっち行ったぞ!」

「分かってるっ!!」


 剣を振る。清らかな銀刃が魔物の首に吸い込まれるようにして一閃。狼のものに似た大きな首が飛んで、赤黒い血を撒き散らす。


 次、背後に回り込んでいた巨体のオークが振り下ろした棍棒を避け、振り返る勢いで剣を下から振り上げた。


 向こうではシルヴィオがいくつもの魔法を同時に放って魔物たちを消滅させている。だんだん連携もとれてきて、相性最悪でもそれなりに勇者パーティーらしくやれていると思う。


「っ、は!」


 コウモリみたいな魔物の群を魔法を纏った剣の一撃で吹き飛ばす。追撃の禍々しい木の枝を払うと、その向こうから魔法を操るヒト型の魔物が襲い掛かってきた。


 剣を振り抜いた直後だったので蹴り飛ばして距離をとる。直後に星の魔法の光線を放って倒した。


 ふと振り返るとシルヴィオの姿がかなり遠くなっていた。


「無事?!」

「人の心配してる場合か?!」

「っ、このっ!!」


 ちょっと強そうな黒い粘液状の魔物が突撃してくる。危な、と数歩後ずさった。

 その直後、シルヴィオの呻き声が聞こえた。


「シルヴィオ?!」

「ぐっ、来んな……お前は、自分の、っ、ことに集中、し、ろ……」

「んなことできるかっ!」


 間に立ちふさがる魔物を蹴散らしてシルヴィオのもとへ走る。何匹も切り捨てて、ようやくシルヴィオの姿が見えてきた――――


「え……」

「来んなっつったろアホ勇者……」

「貴様が勇者か」


 長身の男が……頭に角が生えているから魔物だろうそいつが、シルヴィオの首を掴んで軽々と持ち上げていた。

 シルヴィオは苦しそうに顔を顰め、私の方を見ている。彼の白木の杖は真っ二つに折られ、地面に落ちていた。


 魔物が、金色の目をにやりと細める。


これ・・を返してほしくば我が主の城まで来るが良い。道は開けてやる。貴様は飛び込むだけでいい」


 魔物の背後にぐわり、と禍々しい紫色の時空の穴が開く。


「――来なければこれは殺す」


 そう言って魔物は身を翻した。シルヴィオを掴み上げたまま、時空の穴へ歩き去る。


 取り残された私は、襲い掛かってきた魔物を一太刀で切り捨てた。


「ふざけんな」


 迷いなく、時空の穴へ飛び込む。

 罠だろうけど、構わなかった。




――――――




 ころり、と穴から転がり出る。


 すぐに警戒体勢。握ったままの聖剣を構えて周囲に視線を投げる。


 ザ・城の中って感じの場所だ。


 そして――


「――あんたが魔王?」


 赤く、長い絨毯の敷かれた上段中央に玉座があって、そこに、黒い鎧姿のおっさんが座っていた。


 真っ白な髪に黒い王冠をのせて、ルビーみたいな紅い目で私を見下ろしている。王冠の横からは目と同じ、深紅の角が生えていた。


 魔王は地鳴りみたいな低い声で笑い、鷹揚に頷いて見せた。


「此度の勇者は頼りないことこの上ないな」

「そりゃそうだ、こちとら女子高生やぞ」

「貴様はこれを返してほしいのだろう?」


 そう言った魔王がこの広間の隅を指差す。見れば、さっきの魔物と、ぐったり床に倒れ伏したシルヴィオがいた。


「……殺したの」

「まだ死んではいない」


 灰色の床に広がる血の赤。

 なるほど、私が早く勝たないとシルヴィオは死ぬと言うことだ。

 ぐっ、と聖剣を握る。


「分かった」


 全身に魔力を巡らせる。

 両目が熱くなり、魔力で金に輝いた。


 聖剣が魔力を受けて、瞳と同じく金色に煌めき始めた。髪がばさばさとはためく。


 深呼吸を一つ。

 愉しそうにこちらを見る魔王を睨む。


「それが貴様の固有スキルか、勇者。良いぞ、見せてみよ!!」

「――食らえっ!!」


 続けて、頭の中で叫ぶ。




 調子に乗んなよ魔王、ミンチになっぞ??




 私はそこで初めて、自分の意志でミンチになった。

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