はじめてのこと

西しまこ

第1話

 あー、きんちょーしたあ! すっごくきんちょーして、なんか変なこと言っちゃったかも! テストなら簡単なのに、恋愛って難しいぃー!

 でも! 告白……成功だよね? 弘樹くん、いいよって言ったよね? ……うふふ。嬉しいなっ。


 あたしはついにやけてしまう顔を教科書で隠しながら、またこっそりと弘樹くんの横顔を見た。弘樹くんはやっぱり真面目に授業を聴いて、ノートを書いていた。

 ……あたしはこんなにどきどきして、授業どころじゃないんだけど、弘樹くんはすごいなあ。……中学のとき、彼女がいたっていうのはやっぱりほんとうなんだ。どういう子だったのかな? かわいいこ? きれいなこ? 背が高かったのかな? どん

な話をしていたんだろう? ――だめだだめだだめだ! この思考危険危険―‼

 


 土曜日、弘樹くんと、待ち合わせていっしょに映画を観に行くことになった。初めて、学校の外で会うの!

 わーい、嬉しい! 服はもう決まっているし、大丈夫!

 駅で待ち合わせ。あ、弘樹くん、もう来てる! 

「弘樹くん!」

「彩香」

 弘樹くんはとても自然にあたしの隣に並ぶ。そして、電車に乗り映画館が入っているショッピングモールへ向かう。弘樹くんは「チケット、ネットで買っておいたから。時間があるから、お茶する?」と言う。……嬉しいけど、なんか慣れているなあ、やっぱり、と思ってしまった。


 あたしは、全部初めてなのに。

 好きな男の子とのお出かけ初めて。だから、待ち合わせも初めて。映画をいっしょに観るのも初めて。お茶したり、とかも初めて。

 でも、弘樹くんにとっては、初めてじゃないんだなあ。

 ……だめだだめだ! これは危険思想だから排除しなくちゃ!


「……彩香?」

「あ! うん!」

 あたしはとりあえず、にっこり笑う。笑顔よ、笑顔!

 すると、弘樹くんもふって笑ってくれた。よかった。あ、そうだ。

「弘樹くんのお母さん、お料理、上手なんだね」

 ずっと言いたかったことを言ってみる。

「え? ――あ、お弁当?」

「うん、そう! おいしそうだなって思って!」


「実は」と、弘樹くんはなぜか顔を真っ赤にして「自分で作っているんだ。……中学生の弟の分も」と言った。

「え?」ええええええ!

 弘樹くんちはお父さんもお母さんも仕事が忙しくて、お弁当は自分で作っているんだって。ときどき、朝ごはんも、自分ときょうだい(弟と妹がいるんだって!)の分を作っているんだそう。


「ねえ、弘樹くん!」

 あたしは弘樹くんのことをじっと見つめた。

「うん、何?」

「あのね、あたし、弘樹くんにお弁当、作って欲しいな!」

 って、あたし、何言っちゃってんのー! く、口がー! 勝手に動いちゃった!

 どきどきしていたら、「いいよ」って。

 弘樹くんはちょっと恥ずかしそうに言った。あ、でもちょっと嬉しそう? よかった、嫌がったりしていないよね? 嬉しそうだよね?


「ねえねえ、女の子にお弁当作るのって初めて?」

「初めてだよ」

「よかった!」

 あたしは嬉しくて、にっこりと笑う。はじめてのこと、嬉しいな。

 これからもっといっぱい、はじめてのこと、増えるといいな!



   了



「異世界でドラゴンをかう、ペガサスもかう、えーと次は何だっけ?」

https://kakuyomu.jp/works/16817330654897114257

に出てくる、彩香と弘樹の高校1年のときのお話です。

「好きな人の横顔」https://kakuyomu.jp/works/16817330655829074392

のあとの話です。




一話完結です。

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