≠生存証明
@isorisiru
第1話
※「」なしはナレーションで
病気であまり学校に来ない、どこか達観した男の子。彼の三人の友達は、深夜の学校の屋上に呼び出される。
A「いきなりどうしたの?いきなり『学校に来て』なんて…」
C「もう遅いしさー。人はおろか車もいないし…」
B「おい、何か聞こえてこないか?」
校門まで来たところで三人は気付く。学校から歌が聞こえる。閑静だからこそわかるほどに微かにだが、歌が聞こえた。
B「あいつが歌ってるのかもな」
A「おぉ~、当然だけど、ドアが開いてる。」
C「当り前じゃん!そうじゃなかったら屋上で待ち構えてないよ!」
B「…屋上に近付くにつれ、歌が大きくなっていくな。」
C「何だろねこの曲、バラードみたいだけど…」
A「着いたね、おーい、何歌ってん…の……」
不思議に思いつつ屋上のドアを開けるとそこには、柵を乗り越え、はだしで足を放ったまま一人歌う男の子がいた。
男の子「~♪…ん、やっほー、こんな遅くにごめんね。」
C「どうしたの、そんな所で!」
A「そうだよ、早く戻ってきて!」
その場で男の子は立ち、おもむろに空を見上げる。
男の子「僕達は、何をもってして生きると呼んで、死ぬと定義をつけるんだろうね」
天には、満天の星空。幾星霜の煌めきを指さし、男の子は続ける。
男の子「この永久に続く世界で、宇宙で。僕達はちっぽけな塵みたいなものだ。何も残せや、しない。」
B「何言ってるんだよ!!」
言葉を遮るように、Bは叫ぶ。
B「さっきから言ってることが分からねぇ、俺バカだけどよ、お前が言ってることが何かヤバいって事しか、わからねぇ…」
柵を掴んだ男の子の手をAとCががっしりと掴む。
A「兎に角、この柵を越えてこっちに戻ってきて。話はそれから。」
Cも頷く。それを見て、また。
C「どうして君は、そんな全てを悟ったような笑顔を見せられるの…?」
男の子「この世に、堕ちて17年。もう十分生きたんだ、心も、枯れ果ててしまった。僕は君達とは違う。無機質で、この先心の臓を抉られるような地獄が待っている。」
B「何でそんなこと言うんだよ!これからもっと別の場所に行って、お酒も飲んで、車も運転して、一人で暮らして!もっとずっと、楽しい事はあるんじゃないか?!それなのに、なんで」
男の子「(前の「なんで」にかぶせるように)じゃあ、…じゃあ、僕を生かしてみてよ。人を生かすのが必ずしも正解になりえないこの腐った世界で、君達は僕をどう生かす?」
A「…それは」
B「……」
C「…私達が、いやだ」
A「…そうだよ、私達が悲しい。家族も、友達も、先生も、皆悲しむ!それじゃいけないの?!」
男の子「他人の為に傷を隠すことはできても、傷を受け入れることはできないよ。」
B「でも、生きるってきっとそういう事なんだよ。傷を受けて、与えて、その繰り返し。皆が皆善人ぶって生きてても、きっと誰かを殺すんだ」
A「そうだよ、完璧な善人なんてきっとどこを探してもいない!生けし全ての人が欺瞞なんて持ってるものだよ。」
男の子「曲りなりに生きるとの狂楽で生きるのは訳が違う。楽しくない世界に存在証明してもそれは、机上の空論だよ。」
その瞬間、Cが男の子の頬を叩く。
C「楽しく無かったらって…そんな子供みたいな理由で、大切な命を手放すの?!生きるって、そんな安直に諦めるほど、貴方にとっては軽いものなの?!」
男の子「…苦悶を、知ってほしいとは思わない。寧ろ知ってほしくないね。僕が普段、何を思い、考え、苦悩し。襲われる虚無感に苛まれ、脳が焼けるほどの圧迫感に圧し潰されているか」
C「ひっ…」
黒く覗く男の子の目に深淵を感じ取ったCは、短く悲鳴を上げた。
男の子「心此処に在りて、去れど堕ちし心は哀に、藍に染まる。冷え切るが定めってものだよ」
空も白みだす。
男の子「そろそろ、時間だ。喧騒に追いつかれる前に、僕は逃げさせてもらう。俺は満足だし、皆も俺を止める全てを見つけられなかった。」
A「まって!本当に…本当に満足?もしも何か一つでも心残りがあるなら…留まってほしいよ」
祈るような眼差しで、三人は男の子を見つめる。しかしそれに男の子は首を振って答えた。
男の子「悔いはない、皆に出会えて楽しかったし、最期に皆と一緒にいれて、よかった。」
AとCに握られた両手をそっと緩める。
男の子「生きるって呪いだ。誰かの心に、重い枷をつける。僕のことなんてすっぱり忘れて…心を、笑わせてやってくれ。」
朝日の差し込むのと同時に、男の子の足は冷たいコンクリートを離れる。そしてそのまま、深く、深く。上へ。
笑顔で、落ちていった。
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