第76話 姫さま、護衛騎士をなぐさめる

 スケルトンに囲まれて、異形が見えないんですけど。

 どう攻撃するべきかと思いつつ異形に向かっていったら、姫さまが俺に向かって叫んだ。

「アルジャン! 伏せろ!」

「またかよ!?」

 姫さまがアレをやるっぽいので、一応伏せた。

 ……と、とたんに頭上を光の奔流がかすめていったんですけど!?

 今回は上からじゃないのかよ!?

 避けなかったら上半身吹っ飛んでたじゃねーかよ‼

「姫さまー!!」

 俺は叫び顔を上げると、死霊、スケルトンは消失し、異形も上半身が無くなっていた。

 うわ、怖っ!

 ゾッとしつつ身体を起こす。


 リノールは青い顔でへたりこんでいた。

 姫さまは得意げに羽をぱたぱたさせている。

 あ、俺のヒュドラも得意げに「シャアアアアア!」って雄叫びをあげているな。怖いからやめようね。

 姫さまはリノールに近付くと、腕を組んで仁王立ちしながらうなずいた。

「うむ! お前を勇者の武器の継承者として認めてやろう! 今後も励めよ!」

 リノールは顔を上げて姫さまを見て……だんだんとその顔を輝かせた。

「はい!」

 よかったな、リノール。


 リノールは使えることがわかった。

 ヘタレではあるが土壇場の根性がある。戦わなければならないってなったら気絶せず戦う奴だ。

 今後も危険はバンバンあるから、どんどん強くなるだろう。どこぞの公爵子息とは違うな!


 ……って期待してたんだが……。

 ジローが大怪我をしてしまい、その穴をリノールが埋めなければならなくなった。

 この地も結構強力な魔物が出没する。

 だからこそ、リノールの一族はこの地に居を構えてずっと魔物と戦ってきたのだ。

 もちろんギルドに事情を話して冒険者をよこしてもらうが、今は異形が出没して混乱している。

 すぐ来るかわからない。

 さすがに、臨月間近の妊婦と歩くこともままならない年寄りと重傷患者を置いて旅についてこいとは言えなかった。

「産んだら追いかけますね〜」

 と、キトリーさんがのんびりと言ってくれた。


 すると、リノールが慌てて、

「ぼ、僕が行く! ……姫さま! 僕、絶対に強くなって姫さまを守るから!」

 と、頬を紅潮させながら言ったぞ。どこぞの公爵子息に聞かせてやりたいセリフだな。

 それにしても……へぇ、リノールは姫さまに惚れたのか。あんなにいじめられたのに。

 姫さま、確かに見た目はかわいらしいんだけどな。あのガキ大将っぷりがすべてを台無しにしているけど。

 息子の様子にキトリーさんが「あらあら」と言いながら口元に手を当てて冷やかしている。

 がんばれ少年。王族である姫さまと結ばれるのは難しいと思うけどね。

 ……って思ったけど、よく考えればリノールの家系は勇者の供の一族だから、この国においては下手な貴族より家格は高いのかもしれない。知らないけど。

 ま、俺としてはイディオ様よりリノールの方が、仕える相手としては断然マシだ。頑張って口説き落としてくれ。

 やる気になっているリノールを励ましつつ別れた。


「……さて姫さま。一見、供は増えているようですが、現状は二人です。もう、一時的に騎士団を配下につけましょう」

 姫さまに言うと、キョトンとされたよ。なんでキョトンとする?

「二人でなんとかなるのがわかっただろう?」

「むしろならないのがわかったでしょう? リノールがいたからどうにかなったんじゃないですか」


 リノール、めっちゃ役立ってたじゃん。スケルトンも死霊も有効過ぎて、鍛えられたリノール、もしくはキトリーさんの召喚する不死の軍団に期待しているからね!

 姫さまが首をひねっている。

「……お前が攻撃しづらそうに見えたぞ? 死霊やスケルトンもお前の剣を恐れて近寄らなかったし。魔王の眷属の攻撃はもう私には効かないとわかったから、安心したんじゃないか? お前が一番心配していたのは私の安全だから、それが保障されたのならお前は心おきなく戦えるし、なら邪魔が入るより自由に戦えた方がいいだろう?」


 えええ。

 アイツら寄ってこないと思ったら俺から逃げてたの?


「そう言われると困るんですが、助太刀を『邪魔が入った』なんて思いませんよ。私は団体行動だって出来ますから!」

 姫さまと違ってね!

 ボッチじゃなくて、理由あってのソロだから!


 姫さまがなにか言いたげだけど、

「私は騎士団所属ですし、団体行動は得意です」

 再度強く言ったらブンブンうなずいていた。

 よし、この話は終わりにしよう。


「姫さま、他に団体行動しそうな勇者の供はおりますか?」

 姫さまに尋ねると、困った顔をした。

 嫌な予感が……。

「……あと一人いた。が、ソイツは戦えない。もう一人の錬金術師だ」

 と、宣告された。

「そしてソイツは、既に勇者の道具を返還している。念のため様子を見に行くが……。得るものはない……と思う……」

 膝から崩れ落ちた俺の頭を、姫さまがポンポン叩いた。


 二人で討伐、無理だっつーの!

 今回二体出てきたんだぞ!

 もっと出たっておかしくねーし、そうなったらマジで二人は無理だから!!


「……姫さま〜。今のところ『今回はなんとかなった』で済んでますが、絶対そのうち足下をすくわれますって。勇者の供が揃うまで騎士団に護衛を頼みましょうよ」

「大丈夫だ! お前は心配性過ぎるぞ! そんなに強いのになんで他の弱い連中を当てにしようとするんだ!?」

 俺が情けない声で姫さまに頼んだら、姫さまに叱られた。


 姫さまがムスッとして宣った。

「よし、心配性のお前のためにさらなる勇者の武具を授けよう。それなら安心だろう」

「さぁ姫さま行きましょう。その錬金術師とやらももしかしたら戦えるかもしれませんし、何かしらの戦力アップの道具を持っているかもしれません」

 俺はスクッと立ち上がると、姫さまの言葉を聞かなかったことにして姫さまの背を押した。

 また、ヒュドラみたいなのを寄生させられたら嫌だからな!


 ヒュドラが察したように俺に向かって「シャアアア!」と吠える。怖っ!

「なんで勇者の武具を嫌がるんだ? 剣と魔法鞄はあんなに喜んだのに」

 姫さまが不思議そうに言うんだけど、なんでそれとヒュドラを一緒にするんだよ。全然違うだろ。

「勇者の剣は鳴きませんから」

 と、キッパリ言ったら、またヒュドラが「シャアアア!」って威嚇するんだけど……。

 威嚇する武具と勇者の剣とを一緒にしないでほしいね!



※ いったんここまでです!

  恐らく次はプリエ編になると思います。が、プリエ編は展開に悩んでおりまして(主にアニキの扱い)、お時間かかるかと思います。すみません。

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姫さまの大冒険 婚約破棄された末っ子王女が冒険者になるとか言い出したんだが? サエトミユウ @shonobu

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