第75話 姫さま、次代のネクロマンサーを鍛えようと思ったら戦闘に入る

 姫さまが虫や蛙を投げつけたりし始めたが、とうとう四体スケルトンを出せるようになったリノールに全部防がれる。

 怒った姫さまが地団駄踏み出したところで、俺が回収した。

「ハイ姫さま。その辺でリノールを鍛えるのは終わりにしましょう。あとは、魔物が出て気絶しないのを確認したいですね」

「ムキー!」

 暴れる姫さまを脇に抱えて、話をつけようとジローのところに戻った。


 ジローは、姫さまの醜態に呆れているぞ。

「とんだ悪ガキじゃねーか」

 おい、言葉遣い。

「やんごとなき身分の方だぞ」

 俺が釘を刺すと、ジローが目をつぶって天を仰いだ。

「…………お転婆な姫さまだな」

 言い直しても微妙だよ。


 俺は姫さまを下ろすと、ヨイショした。

「さすが姫さまです。最初の頃は虫を突きつけられた程度で気絶していたような有り様のリノールを、攻撃されても召喚して防御できるような状態まで鍛え上げましたね」

 そう言ったらようやく『そういえばそうだった』みたいな顔をした後、ふんぞりがえったぞ。

「ふん! まだまだだけど、こんなもんで勘弁してやろう!」

 やれやれ。


「最後に、魔物と出会って気絶しないかを確認したいんだけどな」

 と、話すとジローがうなずいた。

「そうだな。俺もそれを確認したいので、一緒に魔物の討伐に向かうか」

 あ、姫さまの瞳が輝きだした。ダメですよ姫さまは見学ですからね!


          *


 軽めの魔物を倒したかったんだよ。

 そう言ったし、ジローさんもそのつもりだったはずだ。

「――姫さま! 身代わり人形を! それを持ってお下がりください!」

「身代わり人形はリノールに持たせる! 私も戦わないとまずいだろう!?」


 異形が現れ、ジローがリノールをかばって負傷、俺はヒュドラを出して防御しながら異形を迎撃していた。

「リノール! スケルトン出して姫さまとジローを守れ!」

 俺がリノールに指示を飛ばすと、姫さまが返した。

「私はいい! お前と親父をどうにかしろ! 足手まといをかばう余裕はないぞ!」

 リノールは聞いているのかいないのか、泣きながら父親にすがっているが……。マジでかばう余裕はねぇぞ!


 ……と、俺が引きつけ損なった一体の異形の攻撃が姫さまに飛ぶ。

「姫さま!」

 だが、防護のブローチと結界の札が仕事した。

 攻撃の勢いで姫さまがふっとんだが、今度は妖精の羽が仕事して、ふわん、といった感じで勢いが止まる。

「よし!」

 前回の教訓による対策が役立ったぞ!

「おらぁっ! 叩き斬ってやるぞテメェッ!!」

 俺は気合いを入れて斬りかかった。


 今回の異形は物理無効でも魔術無効でもない。

 だが、素早い上に二体出やがった。一撃は重くはないが勢いがあるので危険極まりない。

 リノールは姫さまに攻撃が飛んで驚いたらしい。どうしていいのかわからず、泣きながらオロオロしていた。

「リノール! もういい、お前は親父をスケルトンに運ばせて逃げろ! じゃなきゃ親父もろとも囮にするぞ!」

 俺がそう怒鳴ったらビク! と反応し、慌ててスケルトン二体に親父を抱えさせる。

 そのままスケルトンは親父を抱えて山を下りていく……が、リノールは残った。

「ぼ、僕も、囮なら出来るよ! スケルトン出す!」

 根性あるじゃねーか! 気絶してたのなんだったんだよ!?

「よく言った! なら、これを受け取れ!」

 姫さまが叫び、リノールにあの気色悪い杖を投げる。

 ……つーか、杖とかスケルトンは平気で虫や蛙がダメってどういうことよ?


 杖を受け取ったリノールは、

「亡者たちよ、我とともに戦え! 死霊召喚!」

 と、詠唱を唱える。

 途端に、十数体の死霊レイスが現れた!

「アレが災いだよ! 吸命してきて!」

 死霊が一斉に異形に群がる。

「すっげ……」

 俺は驚嘆した。

 異形がめっちゃ嫌がってるぞ。

 必死に攻撃して振り払おうとしているが、死霊だから普通の物理攻撃効かないしな。

 効くのは聖銀の武器か光魔術かだけど……。

 あ、たぶんだけど勇者の剣なら斬れそう。なにせ勇者の剣だからね!


 異形が二手に分かれた。

 群がる死霊を分断しようとしたのだろう。

 そのうちの一体と俺は斬り結ぶ。

 ……ちょっと、俺が相手取った異形に憑いていた死霊、一斉にもう一体のほうに向かっていったんだけど? なんで?


 姫さまは、もう一体の異形にガンガン魔法銃を撃ち込んでいる。

 お、頭を一つ潰したぞ! さすが姫さま!

「……姫さまに負けてらんねぇな!」

 ヒュドラが三つに分裂し、けん制で異形の鼻面に噛みつく。

 異形が嫌がり、いったん飛び退ろうとしたところを下からすくい上げるように剣を振り抜くと、片脚を半ば切り裂いた。

 よろけた異形にたたみかける。

「オラァッ!」

 胴体に思いきり剣を突き入れた。

 ヒュドラがトドメとばかりに首に噛みつき、食い千切っていく。

 剣を勢いよく引き抜くと、異形は体液をドロリと出して倒れていった。


 よし! こっちは倒した! お前らはむしろ連携してた方が強敵だったよ!

 もう一体の異形を倒すためそちらを見ると、

「うわスゲェ」

 異形に群がる死霊。気の毒になるほど祟られているな。

 この異形、何しろ素早いので姫さまの的確な射撃をもってしても倒すまではいかないが、それでもかなりやられている。

 俺も参戦するべく異形に向かって走り出した。

 ……と、異形が俺を睨み、姫さまを睨み……。

 リノールに向かっていった!

 まだ距離はあるが、俺が異形に追いつくよりも異形がリノールに攻撃をしかける方が早そうだ。

「リノール! 逃げろ!」

 俺が怒鳴るとリノールは逃げるより叫んだ。


「助けてスケルトン!」


 すると、スケルトンが無限湧きしたんですけど!?

 なんだよその詠唱!?

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