第74話 姫さま、次代のネクロマンサーを鍛える

 ――と、キトリーさんが奥に行って、見るからに禍々しそうな杖を持って戻ってきた。


 うわぁ、俺の寄生型魔物に匹敵する見た目だな。

 杖の頭部が髑髏の形で、さらにその上に気味の悪い干からびた手のようなものがくっついている。

 これは……姫さま、俺にコレも持てとか言わないよね? これ以上怪しげなグッズをもらいたくないんだけど!


「はい、返還します」

 キトリーさんが差し出してきたら、ジローが慌てた。

「おい!? 本気なのか!? ソレ、勇者の供の子孫である証しだろ!? 他の奴に使われてなんとも思わねーのかよ!?」

 キトリーさんがジローを見た。

「私がこの杖を他の人に使われるのを惜しんだために魔王がこの世界を滅亡させてしまったら困るもの。その方が嫌だわ」

 そう言ったらジローは黙った。

「……確かにそうだな。俺は、お前と先代と息子のことしか考えてなかったわ」

 ジローさんはフラフラと歩いて椅子に座った。ガックリと肩を落としている。

 キトリーさんが改めて杖を俺に差し出したので、俺は……。

「――待って!」

 気絶状態を回復したリノールが飛び込んできた。


「待って! 僕、がんばるから! ちゃんと戦うよ! 僕のせいであきらめたらやだ!」

 必死な顔で訴えてきた。

 その後ろに、腰に手を当ててご満悦な顔の姫さま。

 ――もしかして、聞かせていた?


 リノールは俺に頭を下げる。

「僕、もっとがんばる! だから、杖を取り上げないで!」

 俺は頭をかくと、姫さまを見た。

「えーと、どうします? 先ほど見た様子では、姫さまが鍛えたとしてもかなり厳しいかと……」


 イディオ様とプリエ様は今、旅をして活躍しているようなので、姫さまのあの仕打ちはそこそこ有用だったのかもしれないが、現状は無理だ。

 泣きわめくくらいなら克服できるかもしれないが、気絶もしていたよな。

 ソレ、一番ダメなヤツだからな。泣いて喚こうが意識があれば行動出来る。だが、気絶したらそこでお終いだ。


「うむ、心意気は認めよう!」

 お、取り上げない方向か。

 ということは、姫さま的には見込みがあると思っているのか? 単にいじめる大義名分が出来たって思ってリノールにけしかけてたのかと思ったわ。


「だが、返してもらう!」

 前言撤回。絶対リノールで遊びたかっただけだな。

 リノールが上げて下げられたので、まさに『愕然』といった表情をした。

 ニヤリといじわるそうに笑う姫さま。

「もう一度手に入れたかったら、勇者の供としてふさわしくなって私の前に立ちふさがるといい!」

 姫さまが、魔王みたいなこと言い出したんですけど。


 ということで、姫さまはリノールで遊んで……違った、鍛えている。

 必死で姫さまのいじめ……いや特訓をこなすリノール。

 なんと、とうとう虫を突き出されたらスケルトンを召喚して防御することを覚えたぞ!

 やはりネクロマンサー一族、才能はあるらしい。


「すごいな。血は争えないというわけか」

 俺がつぶやくと、俺の横で一緒に見ていたジローが苦笑した。

「まぁ、もともと才能はあったからな。スケルトン相手におままごとなんて、そうそう出来ることじゃないらしいぞ」

 そうなのか。


 ジローは俺を見ると、唐突に言った。

「アンタ、【光闇の剛剣】だろ?」

 その呼び名はやめて!

 咳払いすると、ジロリと睨んだ。

「……確かに元冒険者で、若い頃そんなふうに呼ばれていたこともあるかな」

「若い頃って……。俺より年下だろうが」

 ジローが呆れたように言うと、急に真顔になって俺に迫った。

「――アンタの勇名はここにも馳せてたよ。で、だ。アンタほど強い奴が勇者の供になっても、まだ勇者の供は足りないのか?」


 怖いよ! どんな勇名を馳せてたの!?


 前半の言葉を聞かなかったことにして、俺は答えた。

「ぜんぜん足りないよ。俺は近距離アタッカーで魔術は全く使えない。それなのに、魔王の眷属に物理無効とかいるんだぜ? それに、強敵一体ならどうにかなるかもしれないが、数の暴力をふるわれたら勇者である姫さまが危険だろう。本当なら、盾役、遠距離攻撃役、支援系、最低このくらいほしい。姫さまの護衛も必要だから、もうワンセットだ。それで、まぁ安心かな、くらいだぞ」

 俺の話を聞いたジローが、

「そうだよな……」

 と、ため息をつく。


 リノールがどんどんガードがうまくなっていき、とうとう虫攻撃が効かなくなった姫さまが膨れたのを見ながら、俺もため息をついた。

「……なんでか知らんが、あちこちで実力より上の評価がされているようなんだよな……。本来は、姫さまには騎士団をつけてほしいって思ってるよ。どうしてなのかそれをやってくれないので、今回、姫さまに話を聞いて不死の軍団に期待したんだが……」

 その野望も潰えた。


 肩を落とすと、ジローが慰めるように肩をポンと叩いた。

「キトリーが無事出産したら一緒に追いかけるよ。リノールは、だいぶ良くなってきた。気絶しなけりゃ泣きながらでも魔術を使えるからな」


 ……あ、姫さま、今度は蛙にしたぞ。ギャーギャー言って逃げるリノールを追いかける姫さま。

 姫さまがリノールに追いつきそうになったとき。

「お、すごいな。スケルトンを二体召喚して、一体に自分を運ばせ、一体にガードさせているな」

 俺が額に手をかざして姫さまとリノールの攻防を実況すると、ジローも手をかざして二人を見た。

「リノールの奴、結構イケてんじゃねーか。追い詰めねーとダメだったのかよ」

 だから鍛え方が甘いって……って、確かに追い詰められてダメになる奴もいるもんな。そこは難しいかもしれないが……でも、跡取りなら一応ギリギリまで頑張らせてほしいかな。


「ムキー!」

 姫さまがなんか言ってるぞ。というか、くやしがってるな。鍛えるって建て前、忘れてないか?

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