第73話 護衛騎士、ネクロマンサー一家に説教する
ジローは、上った血が一気に下がったらしく、顔が青ざめ、よろけた。
他二人もようやく俺の言わんとすることがわかったらしい。
「確かに俺の目から見ても、リノールはどうしようもない。姫さまは鍛えようと頑張っているが、正直アレじゃあ勇者の供としては使い物にならない。すぐ気絶してちゃ俺がソイツも守らなけりゃすぐ死ぬだろう。そんなん、お守りが二人増えるようなもんだ。護衛騎士としては、リノールじゃ勇者の供としては連れていけないって判断だ」
そう言った後、「だけどな」と、俺は続ける。
「赤の他人の姫さまがリノールを鍛えようとしているのに、家族はあっさり見捨てて次に産まれる子を厳しく育てればいい、って考えるのって、『楽だから』以外の表現があるのか?」
ジローはうつむいてしまった。
俺は襟を正すと、肩の力を抜いて言った。
「別に、家族の問題にも子育てにも口を出すつもりはありません。そういう決断を貴方がた一族がしたのならそれでいいでしょう。ですが、貴方がた一族の持つ勇者の武具はもともと勇者のもの。勇者が貴方がた一族の将来を憂い、別の者に持たせるべきだと考えたのなら、返還してください」
そう言うと、俺は一礼した。
重い沈黙が漂った。
甘やかすのは結構、次に期待するのも結構。俺には関係ない。……それが今この時期で、勇者の供の一族じゃなければな!
勇者の武具は非常に有用だ。
特に、不死の軍団を率いて魔王の眷属と戦えるなら、姫さまに頑張って身代わり人形を作ってもらう必要はなくなる。
死なない、壊されてもいい者が戦闘に加わってくれるのは非常に助かるんだ!
なのに、次代に不安しかない状態なら、別の奴に持たせてソイツについてきてもらいたいよ。コッチは勇者の生死がかかってるんだぞ。
そう俺が考えていたら、キトリーさんが決意したように顔を上げる。
「――杖を、お返しします」
「「キトリー!?」」
先代とジローさんが驚愕してキトリーさんを見た。
キトリーさんも二人を見返す。
「話を聞いて、そりゃあ最悪よねぇ、って思ったわ。――生まれてくるこの子より、今さら厳しく出来ないからって諦められちゃってるリノールがね」
キトリーさんがそう言ったら、ジローさんは顔を伏せた。
……ん? 諦めてるのって、もしかしてジローさんだけ?
って考えたら、キトリーさんがそれを裏付けた。
「……私としては、リノールも、生まれてくるこの子も、のんびり鍛えていけばいつかどっちかが継げるくらいになってくれるかなーって考えてたんだけどねぇ。アルジャンさんが言うとおり、今、勇者が現れてこうやって勇者の供の子孫の私たちに会いに来ている、ってことはつまり、世界の危機! ってことなんでしょう? なのに、勇者はかわいい女の子で、お供は護衛騎士のあなた一人。ヤバいわよねぇ。あなたはものすごく強そうだけど、それでも全然足りないんでしょう? だから、本当なら私があなたたちの旅についていくべきなのよねぇ」
キトリーさんはため息をついた。
「……産んだらついていきたかったけどねぇ。予定だとまだ半月くらい先だし、予定通りにいくかわからないし。あ、どっちみち乳母には預けるわよ? そんな時期にのんびり子育て出来ないでしょ。しょうがないのよ、産まれてくる子には時期が悪かったって諦めてもらうしかないわ。受け入れられないのなら里子に出すしかないでしょ。私たちは、ネクロマンサーとして魔物と戦う一族なんだから」
と、キッパリ言った。先代も当然、といったふうに頷いている。
……そうか。辺境伯のところみたいにお家騒動になるかと心配したけど、これだけ覚悟を決めて、しかも現状がわかっているのなら、よけいな心配だったかな。
キトリーさんがさらに言った。
「それにね。別に私、杖なしでもいけるから。もちろんあった方が大人数召喚出来るけど、なくても戦えるのよ。お父さんのほうがすごいけどね……」
え!? マジかよ!
ゴメン、勇者の供の子孫をナメてたわ。
そういや、バジルも独学で魔人形を造ってたっけ。
最初の虐げられてた伯爵夫人改め辺境伯当主が印象深かったから、みんなあんな感じかと思ってたけど、ちゃんとしてる一族もいたのか。
先代を見たら、苦笑している。
「確かにいけるけどなぁ……。ちょっと無理して足と腰をやってな。あんまり動けんのよ。馬車にも乗れんし、遠出は誰かにおぶってもらわんといけんわ。迷惑になるから非常事態以外出歩かないでおるのよ」
敵が近くまで来てくれたらやっつけられるぞ、と笑っていた。
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