夏休み一週間前

第1話

 空き教室でしばらく目を閉じ、消えない過去を振り返え終わり、1年2組の教室に入ると、もうだいぶ生徒が登校していた。


「あっ、新庄君おはよー。」

「おう、集。今日は遅かったな。」

「おはよう新庄君!昨日は楽しかったねー!今日もどこか行こうよー。」

「………。」


 もちろんその中に青木かなもいる。俺が入って来て、みんな俺に注目するが、青木は俺に興味を全く示さない。


 本当に興味が無いなら無いでなんか悲しいな。


 ………いや、そんなのどうでもいいだろ。演じろ。みんなが俺に求めてる『無敵の新庄集』を。笑顔の仮面をつけるんだ。


「みんな、おはよ。今日はちょっとおばあちゃんに道聞かれちゃってさ。案内してたらおくれちゃったよ。」


 あくまでも爽やかに。それでいてクールで気丈に。

 卑屈で頼りなくて、無関心な俺じゃない。

 今は努力家で、何事にも関心を示し、誰とでも仲良くし、誰かを絶対に見捨てない無敵の新庄集だ。


「はは、流石としか言えねーな。」


 藤宮淳。運動神経抜群でスポーツ万能。その才能は凄まじく、色々な部活から助っ人を頼まれている。顔もいいし普通にしていたらモテるのだが、オープンスケベの少々残念な奴だ。


「お前のその人助け精神。俺も見習いたいぜ。」

「淳も充分助っ人で役に立ってるだろ?」

「そうか?普通にスポーツしてるだけなんだけど?」

「–––––お前こそ流石としか言えねーよ。」

 

 俺は努力に努力を重ねてようやく平均より上へ行けたというのに、お前は普通にやって俺の努力を軽く越えていく。羨ましくてしょうがない。


「ん、なんか言ったか?」

「言ってない。女子からの幻聴が聞こえたか?」

「うーん。そうかもしれねーな!」


 危ない。心の声が漏れていた。


 誤魔化す為に淳を茶化してみると、ウケたのか周りからの反応も良好。なんとかなったけど、気をつけろ。無敵の新庄集は弱みなんて見せない。


「おはよう。今日も人気者だね。」 


 そう言って話しかけてくるのは七海 香澄ななみ かすみ。俺の隣の席に座る女子だ。


「………当たり前の事をしてるだけなんだけどな。」

「その当たり前が出来ないから、みんなの人気を集めるんだよ。」

「そういう七海も凄いと思うけどな。みんなに分け隔てなく接して、明るく振る舞う。君こそ人気者だ。」

「別に、みんなと話すのが楽しいから普通に話してるだけだよー?」

「…………。」


 ––––––彼女はだ。

あの言葉は嘘偽りの無い七海香澄から出た本当の言葉だ。

七海は俺のように自分を偽って嘘を吐くような奴じゃない。ただ純粋に、思った事を口にし、行動する。俺が演技して出来る事を彼女はただ純粋にこなす。

彼女こそが『無敵』と呼ぶにふさわしいと思ってしまうほどに……。


凄いとしか言いようがない。そして、演技でないとこなせない俺の不器用さ、不純さに呆れてしまう。


「どうしたの?」


俺が黙っていると、こちらを覗き込むように見て来る。そのあざといとも思われる仕草。これも自然とやっている。………顔も可愛いし、男ならみんないちころだぞ。


「いや、なんでもないよ。ごめん。今日は寝不足でさ。」

「へー。ちゃんと寝ないと駄目だよ?」

「わかってる。気をつけるよ。」


嘘。それでも、俺は嘘を吐く。それしか、そうしないと俺は完璧になれないから。

他人にどこまで自然に嘘を吐いてのける自分に本当に嫌気がさしてしまいそうだ……。


「あっ、そろそろ朝礼だね。」

「もうそんな時間か。来るのが遅かったから早く感じるな。」


そんな事を呟いていると、廊下から担任の先生が入って来る。


「みんな、席につけよー。」


入ってきた先生が言うと、みんなぞろぞろと自分の席に座っていく。


「あー、早く夏休みならねーかなー!!」

「後一週間だろ?それまでなんとか頑張れ。藤宮。」

「頑張れねー。」

「後一週間。後一週間頑張れば約一ヶ月休みたぞ?一週間乗り越えるだけで長期間の休みが待ってるぞ?」

「………その言われ方するとなんだか頑張れそうな気がしてきたな………。」

「単純だな。」

「単純だねぇ。」


俺と七海から同じ言葉が漏れる。まぁ、おそらくクラス中のみんなもそう思っているだろうな。


「はいはい。そんな事言ってる間に出席確認したし、授業始まるぞー。」


藤宮との雑談?の間に出席を取り終えた先生は言った通りに授業の準備を始める。


………さて、今日は初めからハプニングが起こってしまったが、今日もなんとか完璧を演じて頑張るか。






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完璧な青春を目指すラブコメ カイザ @kanta7697

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