完璧な青春を目指すラブコメ

カイザ

無敵の新庄集の表と裏

第1話

 いじめ。


 それは、相手を精神的に、または身体的に痛めつける。


 それは、個人ではいじめに成り立たない。集団で個人を、または少数を痛ぶる。


 それは、時に悪意を持たない。むしろ正義だと主張する。


 それは、最も残虐な行為。



 ***


 高校生になって、初めての夏が訪れようとしていた。


 少し前までは寒いと思っていたのに、今ではそれを感じさせない暑さで自然と汗が流れる。


「ねぇ、集君!これから私達とカラオケ行こうよ!!」

「いいね!俺達も一緒に行ってもいいか?」

「え〜?あんた達は必要じゃないんですけど?」

「はぁー?集は俺達とセットなんだよ!なっ?集?」


「………はぁ。淳達を連れて行くなら俺も行くよ。後、俺はセットじゃないからな?」


 俺はため息を吐き、俺にカラオケに行かないか提案して来た鳴坂真矢達の誘いに乗る。一緒に行きたそうにしている淳達も連れて行く事を条件に。


「集君がそう言うなら……いいけど?」

「うん。集君に感謝しなさいよね!」

「うし!!おうおう!あんがとな集!!」

「いや、俺は何もしてないが。」


 みんなの反応を見て、苦笑を浮かべた後、みんなでカラオケに向かった。



「ねー、最初誰から歌うー?」


 部屋に入ってひと段落した後、女子がリモコンを持ってちらちら俺を見てくる。


「俺が歌おうか?その間に何か料理頼んでよ。金は俺が払うから。」

「えっ、本当に?いやでもいいよー。私達も出すからー!」

「俺達も出すぞ?集にかっこいい真似はさせねーぞ?」

「別にかっこいいとは思ってないけど……。昨日給料日だったんだ。奢らせてくれ。」


 俺が淡々とそう言った後、みんな少し間をおいてからも承諾し、女子からリモコンを貰い、曲を選んで早速歌い始める。


 別に求めてはいなかったのだが、何故かノリノリの淳達は合いの手を入れ始め、それに続いて真矢達女子陣も合いの手を入れ始める。


 みんなに応える為に俺は精一杯歌いきり、ジュースを手に取り口に入れていく。


「うそっ!95点!?テレビ出れるレベルじゃないの!?」

「……そんな事無い。まだまだ頑張らないといけないレベルだと思うが。」

「謙遜しすぎだろー!謙遜し過ぎると逆に妬まれるぞ?」

「そうか?なら……、俺はやっぱ上手いな。うん。テレビ出れる。」

「それはそれでうぜーな!?」


 そんな軽口を入れた後、次に歌う人を決めて、その後もカラオケを楽しんだ。



 ***


『無敵の新庄集』


 入学していつの間にか言われ始めた俺のあだ名だ。顔が整っており、高身長で誰にでも平等で優しく、リーダーシップも持っている。誰も付け入る隙も無い

 そんな所から『無敵の新庄集』と呼ばれるようになった。


 ………だが、そんな完璧超人。いるわけが無い。


『無敵の新庄集』それは俺が作り上げた仮面。


 本当の新庄集は卑屈で不平等でリーダーシップなんてものあるわけなんか無い。そんな俺に唯一あった才能が演技と嘘。


 偽りの笑顔を作り上げ、完璧を演じ皆を魅了する。


 果たしたい目的の為に、俺は今日も仮面を被る……。



 ***


「はぁ〜。」


 何事も無くカラオケも終わって次の日になった。今日も今日とて誰よりも早く登校して自主勉。と予定していたが、今日は誰も使っていない教室に入って一人ぐったりしている。


 無敵を演じるのにも相当な精神力がいる。俺は出来る。俺ならと自己暗示して演技をしているが、でも心の片隅に失敗した時の事を考えて怯えている俺がいる。


 それに、完璧を演じる為の努力による疲労は凄まじい。


 常に成績優秀。流行は誰よりも先に取り入れる。

 もともと成績は良く無い。流行も本当はあんまり興味無い。


 でも、挑戦した。

 毎日夜遅くまで勉強して、その片手間にネットに潜り、流行りそうな物をチェックする。


 完璧を演じる為に、俺の自由な時間はほとんど無かった。だが、そのおかげもあってみんなからそれなりの評価を獲得している……。


「新庄君?」

「はぁ………。」


 またため息が出てしまった。


 ………この生活は疲れるけど楽しく無い訳では無い。むしろ今まで生きて来た中で一番エンジョイしてる。

 エンジョイしすぎているせいで毎日誰かに誘われて、断らずに誘い乗っているせいで疲れが溜まる。たまには断って自由な時間も欲しいが、を思い出して躊躇ってしまう。


 ……いつでも、俺が目を光らせておく必要があるんだ。もうあんな事はもう起こさせない。絶対に。


「ねぇ、新庄君。」

「あっ。」

「こんな所で、何してるの?」


 力無くぐったりと椅子にもたれかかりながら考え事をしていると、いつの間にか俺と同じクラスの女子の青木かながいつの間にか教室の中に入って来ていた。


見られて、しまった。本当の俺の姿を……。

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