第117回 推し作家が最優秀賞に!

 6月頃の公募の結果が出ました。日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2024、最優秀賞が決まりました。日本SF作家クラブの小さな小説コンテストとはpixivが主催で日本SF作家クラブが共催するコンテストです。コンテストの前身であるコンテストを含め今年で四回目となります。SF作家を志すアマチュアの登竜門的な立ち位置のコンテストです。

 賞の最優秀賞であるさなコン賞に、いつも応援している、いわゆる推しである秋待諷月様の「花が咲いた日」が選ばれました。快挙です。素晴らしい結果でした。秋待様については本連載でも度々触れているので覚えている方もいらっしゃるかもしれませんね。カクヨムコン8では私がSF作品でベストチャレンジ賞を贈った作家様です。( https://kakuyomu.jp/works/16817330655763574688/episodes/16817330660548303031 )

 今回は秋待諷月作品を語る回として、秋待さんの作品を概観してみたいと思います。(秋待諷月様のページ https://kakuyomu.jp/users/akimachi_f )


 評価している点を先に説明しますと、過剰なロジック性にあります。

「不老不死の窓口」( https://kakuyomu.jp/works/16817330649543446439 )や「カプセルギフト」( https://kakuyomu.jp/works/16817330660490962252 )といった作品で見られる、荒唐無稽なアイデアやSFアイデアをうまく立ち上げるロジックがふつうの人とは違う点でしょうか。ふつうSFであるならばそのロジックは科学的であるはず。しかし秋待様の作品は行政法や法律といった側面からリアリティラインを立ち上げていくのです。

 これは初めて読んだとき、目を丸くしたというか、ある意味ウリのポイントです。ロジックの過剰さはSF読みなら一度はSFを通して知っています。それをアマチュアの作品で見るとなるとこれは評価せざるを得ないです。

 こうしたロジックの過剰さはポイントを掴めば科学的にも説明できる将来性や、説明に無理なく説得力を持たせる上手さにもつながっています。そこを評価しています。


 続いてドラマチックに物語を語る能力でしょう。

「ウェザーカレンダー」( https://kakuyomu.jp/works/16817330667504898341 )では天気が予報ではなく予定になったという世界のお話を展開させていますが、そこでも全地球的なお話にせず、まとまりあるドラマを立ち上げている点を評価しています。

 天気をコントロールできる大人たちが子どものために一肌脱ぐというお話で、ドラマ性が読んだ人を惹きつけます。またこれはミステリーテイストのお話である「誰がツグミを殺したか」( https://kakuyomu.jp/works/16817330669105226662 )でも同様です。いろいろなシチュエーションを書き分ける勘の冴えが光ります。

 

 一筋縄ではいかない人間描写も魅力的です。

「願望交換局」( https://kakuyomu.jp/works/16816927860480579557 )では様々な人間が願望を叶えるためにやってきます。綺麗なお話だけで成立しない人間臭い欲望のお話を展開していて、読みごたえがあります。キャラクターを描くという点でも突出しているところも見逃せません。

 キャラクターで言うと明るいコメディも上手です。「われはロボット掃除機」( https://kakuyomu.jp/works/16817330659671352313 )ではロボット掃除機の一人称という切り口で書いています。軽妙なノリが楽しい逸品。こちらは軽く読めるので初心者にもおすすめです。難しくない、サクッと読めます。しかも面白い。


 最後は作品としての完成度でしょうか。小説ってお店みたいなものだと感じます。読んでから、本を閉じて、しみじみと感想を抱きますよね。それは訪れたお店で、あのお酒が美味しかったとか、席から見えた庭が素敵だったとか、そういうおもてなしがあったかどうかだろうと思います。そういうしみじみとさせる、時にハッとさせられる作品があります。

「幸福自動販売機」( https://kakuyomu.jp/works/16816927860303398377 )や「不器用なミツバチ」( https://kakuyomu.jp/works/16817330654958161232 )がそういう作品だろうと思います。


 全体的に完成度の高い秋待諷月様の作品。もちろん、他の作品も文句なしに面白く、素晴らしいと思います。例に挙げた作品以外にも皆さんにとって素晴らしいと感じる作品を選んでいただきたいと思います。

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