第116回 物語をふたたび考える

 お久しぶりです。空いた期間はずっと短編にかかりっきりになりつつ、アンソロジーに送られてくる短編を読んでいました。そうした読まれる側、読む側に立ちつつ良い作品とは何だろうと考えていました。日々、SNS上の情報が飛び交っていましたし、そこでも何度もこうした作品は良くないとか良いとかそうした話があり、そうした言論空間があることに希望を見出しつつも、SNSの性質上実り多い結果にならないのが歯がゆくもありました。SNS上の対話に対しては皆さんはどのようにお考えでしょうか。


 私の立場を申し上げると、物語はどうあっても許されると感じます。じっさいにどんな作品があったとしても、評価とは別の存在として物語がある、とでも申しましょうか。物語があることと評価や他者の言動は別の次元のものと捉え直しておくと、創作がぐっと楽になるのではないでしょうか。一度、肩の力を抜いて、物語の風に任せると上手く行くこともあります。


 本連載の趣旨は、書籍化される作品と書籍化されない作品という内容ではありますが、何が選ばれる作品なのかという点は少しずつ見えてきた気がしています。それはアンソロジーの編集作業をして物語を外から、あるいは作家として物語を内から眺めた結果です。

 文芸としての面白さを一言で示すのは難しいように思いますが、作品にひとつ芯が通っていると感じられる作品は強いのだと感じる機会がありました。それはテーマ性というものと言ってしまえるものなのかは分かりませんが、強く何かを持って書くことが伝わる文章を書くことになるという点は見逃せないことだと思えます。

 第二回あたらよ文学賞にて一次通過はならずも、それと同等の評価と講評を受けたことが自信に繋がりました。

 テーマ性をもって書くこと、そうした気持ちの面から創作を練り上げていくことが、物語をきちんと終わらせるためにも重要だと思いました。


 いっぽうで現在プラネタリウムが出てくるSFを書いているのですが、そちらの話を織り交ぜながら語りますと、そうしたテーマ性はどこから出てくるのかは自分との対話によるものでしか出てきませんから、ゆっくりと時間をとって考えるということが大事です。初心者の方はまずはそうしたテーマ性を考えつつも、技量(簡単に身につくもの)を整えてから、満を持して作品に取り掛かるのが良いのではないかと考えます。

 文芸作品を書き上げるには、まずテーマを明らかにしましょうという指南がありますが、一度で成功するイメージを取らないで回り道でも様々な局面に自分が対応できる自己効力感を持ってから完成形に至るのも良い気がします。「俺は物語を書ける」という謎の自信がついてからでも遅くはないということです。なぜなら物語が手癖でもいいので書けるという一つの自己肯定感から、そうした謎の自信に繋げるためには何度も挫折しながらもがいた経験が活きてくるからです。

 何度も試行錯誤を繰り返しただけ、強く物語を進められるのです。


 SFの話で言えば、そうした作品にならない期間は妄想を広げる期間として用意するのもいい気がします。科学的なアイデアを広げておく謂わば仕込みの期間です。「もしも~〇〇が〇〇だったら~」とSFガジェットやSFの設定を考えておく、そうした時間であると割り切って、創作に取り組みます。ここで得られた妄想はどこかにストックしてラフなスケッチなどにしておくと、創作以外のクリエイティブな仕事でビジョンを考えたりするのに使えるわけです。最近では生成AIとのチャットでアイデアを練り上げる作家もいます。SFのガジェットは、科学的であればあるほど良いというわけではなく、きちんと整合性が取れていれば(物語が要求する範囲であれば)どうあっても良いと考えますし、頭の良し悪しはそこまで関係ありません。


 話を戻しましょう。

 物語はどう書いてもいいという立場を私はいまのところ持っていますが、評価される作品とそうではない作品があるというのは公募では歴然とした事実として横たわっています。この問いにはたくさんの小説を読んだ経験から考えられそうです。

 ひとつはあらすじでしょうか。作家のレベルを簡単に把握できるのがあらすじです。あらすじというのは始まりから終わりまでを簡単に記した物です。ネタバレになるからと言っても公募では最後まで書かないといけません。あらすじを求められるのは書き手のレベルを把握したいということと、内容の良し悪しもそこである程度イメージできることがあります。物語には良い構成と悪い構成があり、あらすじレベルで悪い構成が分かれば指摘できますよね。こうした本文以外の資料ですべてを判断するわけではありませんが、どの程度の資料が来るかで審査の力の入れ所が分かるのです。

 ふたつめはなんでしょうか。それは読者をどのような場所へ連れていくことを想定しているかではないかと思うのです。これが弱いと散漫な印象を受けますし、それまで構成がよくても、最終地点が明確ではないと読後感が悪いと感じます。何を書くべきかという根源的な問いにも繋がりますが、書くべきことが分かっているという段階に入って初めて読者を想定する段階にも入れるのだとも感じます。それまでのレベルアップが要求されますね。

 以上のふたつに続いて、短編であれば枚数と書いてあることのバランスも考慮されるべきことに入って来そうです。


 物語を考える機会はこれからも増えてきそうなのでライフワークにしたいと考えています。

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