第33回 カクヨムコン8で出来映えの良かったSF短編作品③

(11)たまたま座ったところに“すべて”があり、それが直腸に入ってしまった。/惑星ソラリスのラストの、びしょびしょの実家でびしょびしょの父親と抱き合うびしょびしょの主人公

 https://kakuyomu.jp/works/16817330652093903014


 SF界隈では有名な作者の作品です。表題通り、バカSFです。にもかかわらず、文章が上手いのがまた笑いを誘います。映画「マルコビッチの穴」を思い起こさせる話です。穴が何なのか、私はどこにいるのか、これらの疑問は文章表現からでしか表現できない次元の話です。空間描写が悪いわけではないのですが、不思議さでは群を抜いていたと思います。肛門がお話の中心になるので苦手な人は読まないでください。


(12)キミの星なるイマジナリー/春野休暇

 https://kakuyomu.jp/works/16817330650849490053


 イマジナリーフレンド、空想の友達ですが、その視点から起こる小説です。視点の持ち方は独創性があり、面白いです。主人公がイマジナリーフレンドなので、その彼女と彼と、また彼が惚れた宇宙人の彼女という三者関係に、さらに別の彼が来るという斜め上を行っているユニークさ、文章のドライブ感、不思議さはトップクラス。純文学としても、SFとしても読みどころがあり、楽しい読書でしたね。


(13)エトのみた星/ micco

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648003728240


 毒ガスが世界を覆い、人々はシェルターに籠っている世界の話です。これは世界的なパンデミックである現在の世界とも重なる、極めて現代的な設定でした。そうした読みかえができる器の大きい作品で、かつ物語に派手なことが起こっていないことも印象が良かったです。あるのは生きることや死ぬことであり、そのはかなさと、主人公が絵を描くことというシンプルな動機が胸に迫ります。出会った少年と大人の奇妙な共同生活は、いまも世界のどこかで起こっている事実の投影とうえいかもしれません。


(14)畦道神楽あぜみちかぐらサップーケー/鳥辺野九

 https://kakuyomu.jp/works/16817330650379892651

 

 月面で神楽かぐらを踊ってくれないか? という荒唐無稽こうとうむけいな展開が起こる本作。どうして月面で田植えをすることになるのかなどディテールが楽しく、驚きもありました。

 神楽を踊る巫女と神、そうした土着的どちゃくてきな世界がSFの宇宙開発分野と奇妙にリンクする不思議さはSFでしか味わえない感動です。



 いかがだったでしょうか。本稿では14作をレビューしました。リンクも貼っているので、PCから読んでいる方は読んでみてもいいかもしれません。どれも面白く、出来栄えが良いです。

 真に勝手ながらベストチャレンジ賞を秋待諷月あきまちふうげつさんの「不老不死の窓口」に贈らせていただきます。(https://kakuyomu.jp/works/16817330649543446439)選考理由といたしまして、コールドスリープという古典的テーマに新たな光を与え、輝かせた、その挑戦に対して評価したいと思います。おめでとうございます!

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