第32回 カクヨムコン8で出来映えの良かったSF短編作品②

(5)ホットケーキ・(リ)ミックス/吉野茉莉

 https://kakuyomu.jp/works/16817330650452739022


 内容自体はそれほど驚くべきことをしていない一作。ホットケーキを焼くだけ、なにもしません。しかし話の運びのなかで背景にある世界の情報やキャラと彼らの行く道がさりげなく表現されているのは、筆舌に尽くしがたいです。かなり出来栄えの良い作品です。


(6)最後の後に、会いに来て(全4話)/天野橋立あまのはしだて

 https://kakuyomu.jp/works/16817330649159478968


 SNSで出会った女性に会いに行く。彼女は何者なのだろうかというところをフックに話が進みます。いずれこの物語も現代ドラマになってしまうかもしれませんが、SFとして読めますね。ストーリーにもほのかな驚きが仕込まれていて、上手です。不思議な読み味もあり、この世界観は好きでした。


(7)R4200号/空川 億里(そらかわ おくり)

 

 SFを読んでいる人ほど、だまされる。情報の開示の仕方が上手かったです。ある種のディストピアを短いあいだに詰め込んだ秀作です。時間がないときにはとくにお勧めします。怖さもあり、ホラーテイストにしても十分に楽しめます。これからに期待したいです。


(8)シュガー!シュガー!シュガー!/ オダハラ モミジ

 https://kakuyomu.jp/works/16817330650672188747


 糖分しか取れない体になってしまった女性、彼女は秘密の任務があり……。これは文章のドライブ性でのみ突っ走ってる勢いのある作品です。SFとしての細やかさ、科学的記述には欠けます。人間には三大栄養素が必要ですよ、脂質、タンパク質、炭水化物です。糖分しか代謝しない体という設定はさすがに無理があるのでは? とは思いますけれど、面白かったので推します。


(9)春と修羅と怪獣と私/紫陽_凛

 https://kakuyomu.jp/works/16817330651111962834

 

 ある日、怪獣になってしまった女性。彼女を彼女と理解できるのは親友だけだった。これは怪獣映画に、宮沢賢治みやざわけんじのテクストを埋め込んだ作品で重層的な物語になっています。純文学的とでもいえばいいのか、何度も読み返す必要がありますね。怪獣になってしまった理由は? とかは説明はなかったと思うので、そういうもので、こう抽象的ちゅうしょうてきな物言いになりますが起こっていることと宮沢賢治の詩が共鳴している、そんな物語です。


(10)不老不死の窓口/ 秋待諷月あきまちふうげつ

 https://kakuyomu.jp/works/16817330649543446439


 コールドスリープ(人工冬眠)によって不老不死が約束された未来の話。本格SFです。しかしここで展開されるのはコールドスリープがどのように法的に解釈され、行政システムのなかでどのように位置しているのかといったHOWの物語です。これは特に面白かったです。レビューも書いてます。お仕事小説としても読めて、ストーリー自体には慎重さがあり、大胆さに欠けますが、これから楽しみなSF作家だろうと思います。

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