第7話 決闘、その後/運営ルームの一幕

「答えろ人殺し!」


そう言ってザクロが男の腕を切る。

男のHPがなくなり、光になって消える。


〈〈ザクロ win〉〉


〈〈決闘に勝利しました。

  経験値を手に入れました。

  レベルアップ!lv1→lv2

  レベルアップ!lv2→lv3

  スキルレベルアップ!

  <重心移動>lv1→lv2

  <刀士>lv1→lv3

  称号[決闘者]を手に入れました

  称号[馴染む者]を手に入れました

  称号[怒れる者]を手に入れました〉〉


アナウンスが流れる。

ザクロは勝利した。だが…


「あの野郎逃げやがった!」


ザクロが叫び、あたりを見渡す。


「どこだ」


がフラッシュバックする。


またか、また私は逃げられたのか?


目の像が行き場を無くし永遠に消えてなくなってしまうかのように感じる。


すると観客の一人と目があった。目から消えかけていた像が再び重なる。


「そこか」


途端、ザクロが観客に向かって刀を投げた。


まだ目にハイライトはない。


刀が観客に迫る。





「危なあああぁぁぁぁぁぁい!」


カァンと小気味よい音がして刀が弾かれる。


イチジクが観客の前に踊り出て横から刀を殴りつけていた。


「ザクロっ!」


イチジクが観客席から舞台に降りザクロに向かって走り寄る。


「イチ……ジ…ク?」


ザクロは突然現れた親友の姿に困惑する。

イチジクはにはいなかったはずだ。


イチジクがザクロを抱きしめる。

時間が進み、の夜になる。


「落ち着いて。私だけを見て。息を大きく吸って、吐いて、吸って、吐いて」


ザクロが深呼吸すると同時に小さく呟く。


「ごめんね、一人にしちゃって。ごめんね。ごめんね」


その言葉にザクロの心が揺れ動く。


イチジクの目から涙が溢れる。


「私はここにいるから、戻って来て」


「お願い」




……………………

……………

……



目にハイライトが戻る。

から現在いまに戻ってくる。



「もう大丈夫じゃ、イチジク」


「ザクロ…!良かった…」


ザクロがイチジクを抱きしめ返す。


「迷惑をかけたな」


「いいの。元はと言えば私が声を出せなかったのが良くなかったし、これが私にできる唯一だから。」


「それでもじゃ。ありがとう」


「どういたしまして」


二人はしばらく抱き合ったあと、一緒に控室に戻ってゆく。


「今日は疲れたし里に帰ってログアウトしようと思うのじゃ。イチジクは?」


「私もログアウトするつもりよ。今日は一緒に居たほうがいいと思うの」


「ああ、そうしてくれると助かる」


そう言って笑い合い、闘技場を後にする。

二人は他愛もない雑談をしながら魔法陣に向かう。


「そういえば、吸血鬼にも里とかあるのか?」


「里というか…大きな城の中にコミュニティーがある感じね。まだ全部回りきれてない程大きいのよ」


「それはすごいのぅ。一回行ってみたいものじゃ」


何でもないように見えるが、今はこの安らかな時間が二人には必要だった。


魔法陣にたどり着く。


「じゃあ、待っててね」


「うむ。待っておるぞ」


そうして二人はログアウトした。

____________________


時は少し遡り、ザクロが正気に戻った頃。

運営室はザワザワしていた。


「チーフ!」


「何が起こったか察しはつくが…なんだ?」


「過去最大DPを観測しました。しかも初めての殿堂入りクラスです」


その報告に周囲の社員がざわめく。

チーフも冷静を装ってはいるものの、動揺しているようだ。


「だろうな。しかしすごいな、この子は」


「ええ。ここまでDP平均値が高い人は社内にもいませんでしたね。」


「ああ。しかもただでさえ少ない上位種族のそれも鬼族とは…」


「あの時は鬼族モデリングが歓声を上げてぶっ倒れてましたね」


「それに加えて相方の娘も吸血鬼ですもんねぇ…」


「その時も吸血鬼担当が喜びと驚きで腰を抜かしていたな」


「まさにどんな確率?!って感じですよね」


その社員の言葉にチーフは眉を寄せ、少し低い声色で言う。


「誰か情報を流したりはしてないよな」


別の社員が、慌てて否定する。


「まさか!それはありえません。念のため全社員に調査を行いましたがそれだけは絶対にない、と全員が回答しました。」


「ふむ…となると本当に適性があったのだろうな。となると、我々の用意した最難関進化ルートに行くんじゃないか?」


「ありえますね。前提スキルも称号もゲットできそうですし………喜ばしいことではないですが」


「そうだな。もし彼女が時は、運営からも何かアクションを起こさなければいけないか」


チーフも社員も少し暗い表情をする。


「ですね。他の上位陣も中々強くなりそうですよ」


べつの社員が、暗くなった空気を変えようと、別の話題をふる。


「他の上位陣といえば、人族はどうだ?」


「そっちもβ勢を中心にチラホラと、ですね。例えば『赤い聖剣』や『スペルキャスター』、『噛み合った歯車群』等が有名です」


「ああ、あの人達か。なるほど、二日目にして皆段々ゲームシステムを理解し、慣れてきたな。ならばそろそろ告知してもいい頃合いだろう」


周りの社員達もうなずく。


「ですね。では3月の終わり頃に開催する感じでよろしいですか?」


「うん。その方向で詰めといてくれ」


それを聞き、社員は早速細かいところを詰めにかかる。他の社員もワクワクを隠しきれないといった表情だ。


「第一回大規模イベント、バトル・ロワイヤル…楽しみですね」


「その楽しみのために、頑張らないとな。ほら、皆持ち場にもどれ」


「「はい」」


こうして今日も運営ルームは忙しく動き回っている。



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『Alternative You』〜RPに魅せられた少女〜 第八天魔王 @dai8tenmaou

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