ここでなら自分は変われる?

 エマ=トーレスが日本の生活を気に入り、学校で奮いまくっていることを知らない私は勇者様の家へ時々、遊びに行き、意気投合していた。


「このお茶美味しいわ」


「わかるか!?それ自家製なんだ」


 すごい!と褒めるとリュカは嬉しそうに笑った。後から、少しお茶っ葉をわけてあげるよと言われる。相変わらず、優しい人だ。


「えっと、私、プリンを作ってきたんだけど……」


「なんだ?そのプリンって?」


 隣の家のソウタのお母さんが作るプリンが大好きな私は作り方を教えてもらっていた。この世界でも作ってみた。時間はかかったけど、なんとか完成した。


「まあ、食べてみて」


 リュカはそっとスプーンですくって、口に入れた。


「うわ!なんだこれー!?喉越しがよくて、滑らかで優しい甘さ!美味いーーっ!」


 気に入って貰えたようで、良かった。


「あっちの世界の食べものなのか?」


「うん。そうなの。私の大好物なのよ」


「へええ……そう思うと、やっぱり入れ替わったことを実感してしまうな。いや、まあ、性格からして、まったく違うんだけど」


「そんなに違う?」


「ぜんっぜん違う!」


 全力で否定するリュカ。まったりお茶タイムをしているとドアをドンドンッと叩かれる。リュカの表情が一変した。


「おいっ!いつになったら、オークを倒してくるんだ!?この怠け者め!」


 バンッと扉が無遠慮に開かれた。髭面のおじさんだった。


「なんでオレの仕事になってるんだよ!?しかも無報酬とかおかしいだろ?」


「聖なる力を持っているなら、使え!勇者の力があるなら、もったいぶらずに東の森にオークを倒してこい」


 リュカの言葉を無視して話を進める。私が……あの……と口を出す。


「じゃあ、代わりに私が行きましょうか?」


 リュカにはお世話になってるし、ここは私がエマの力でやってみよう!と、買って出る。


「お、おまえは!?………いえっ!あなた様はっ!」


 私はニッコリと笑う。顔色が悪くなる男。


「エマ=トーレスです……けど?」


「ヒィィィ!!す、すいませんでした!勇者の説得に来ていたなんて知らなかったんですうううう!……また後から出直してきますっ!邪魔してすいません!すいません!」


 ダーーーーッと背中を見せて去っていく人。な、なんで!?私は快く引き受けようとしただけなのに!?


「エマ=トーレスは自分から親切にそんなこと言わない。『無報酬でこのあたしをこき使おうっていうの?』って相手をズタボロにするぞ」


「ええええ!?」


「いやー、でも、助かったよ。オークか〜。まぁ、君となら一緒に行ってみていいかな。行ってくる?」


「嫌だったんじゃないの?」


 リュカは苦笑した。


「オレは他人任せなやつらが嫌なだけで、倒してきて、人のためになるなら、それは別にいいんだ」


 言っている意味が少しわかる気がした。でもそれは同時に心が少し痛かった。日本の私は……そうやって前に出ず、人がしてくれることを静かに見ていた。自分が傷つくことが嫌で。それは自分を守るために必要だったけど、私はそんな自分が好きだっただろうか?


 私は……と考えて顔をあげ、リュカを見た。


「じゃあ、ピクニックがてら行ってくるかー!」


 リュカは立ち上がった。明るい笑顔と共に。


 私、もしかしたら、この世界では少し変わることができるかもしれない。そう思った。

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異世界の最凶天才魔道士と地味な私が入れ替わる呪いをかけられた! カエデネコ @nekokaede

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