下僕は人が良すぎるようだ

「ソウタ君を最近こき使ってるって本当なの!?」


「ジミコのくせに生意気ー!」


 呼び出された=決闘よね?とワクワクしてやってきたのに、わけのわからない難癖つけられてる。女子5人程にトイレに呼び出されて囲まれた。トイレっていう場所の選択はなんなの?暴れるならもっと広い場所が好きだわ。


「は?こき使ってる?下僕があたしのために働くのはあたり前じゃないの」


『下僕ーーーーっ!?』


 トイレに反響する。あたしは指で耳栓をした。


「調子にのってんじゃないわよ!」 


 あたしの肩を突き飛ばそうとした一人の手をパシッと握る。グッと力を込めるとミシッと指の骨が音をたてた。


「痛ーーい!きゃあああ!」


 手を離してやると涙目だった。まだ握力は鍛える必要があるようだ。一撃で仕留められなかったか……。他の女子の目が恐怖の眼差しに変わる。


「ミコーっ!どこだあああ!?」


 ソウタの声である。あたしはハイハイとトイレから出ていく。


「ほら、焼きそばパン買ってきたぞ?」


「ほぉ……優秀じゃないの。記憶では人気パンゆえ、なかなか購入は難しいとある」


「オレ、割りと足は速い方なんだ……じゃねーよ!パシリみたいに使うなよっ!」


「パシリみたい?パシリでしょう?」


 なんでだよっ!?いつからだよ!?と使いやすい男はそう文句を言う。


 焼きそばパンとは不思議な食べ物だ。炭水化物と炭水化物の組み合わせ……それなのに………。


「美味っ!!」


 なぜ美味い!?ソースのかかった麺をパンに挟んだだけなのに、なぜこんなに美味い!?


「良かったな……なんか最近、ミコがイキイキと楽しそうにしてて、嬉しいよ」


「その割に下僕のおまえは疲れていないかな?」


「わかってんなら、こき使うなよっ!オレを使いすぎだろ!?」


 中学生になってソウタは背が伸びだしてきて、ミコを追い越し、他の女の子からモテだしたらしい。上位グループの女子とミコが思っている先程の彼女たちはこいつのことが好きなのか?……まぁ、あたしのことをいちいち気にかけてるあたり、人が良すぎるやつとは思うけど好意とはまた別だと思う。


 フッと鼻であたしは笑う。


「な、なんで鼻で笑うんだー!?」


「なんでもないわ」


 平和な世界、人の良い男……なによりも美味い食べ物!なかなか異世界も悪くはないなと思ってきた。この世界、楽しいぞっ!

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