かんじゃ 🐮

上月くるを

かんじゃ 🐮





 なにをほざくか、若造が!! たまたま医者の家に生まれたというだけで恵まれた半生を送って来たくせに「おたくの世代は逃げ得ですよね」どの口が、それを言う。


 中卒で田舎から集団で東京・下町のメッキ工場に就職した、鉛が商売道具の危険な仕事だったが、金の卵と煽てられ寝る間も惜しんで働き、戦後日本の一翼を担った。


 自分たちの与り知らぬベビーブームとやらのおかげで、生きる道程のすべてが凄まじい競争社会で、当然、その子どもたちも同様で、あげくに就職氷河期と来た。(-"-)


 この体たらくな日本の下地をつくったのは、たしかにおれたち世代かも知れない。

 だが、好んでその時代に生まれて来たかのように言うのはアタマワル過ぎだろう。




      🏙️




 温和と評される、世間知に長けた満面の笑みの腹の底で、思いきり罵倒してやる。

 初診患者を老人性うつ病と診断した医師は、でっぷり太っているが三十代後半か。


 家庭教師がつき、賢いと言われつづけて来た(当然だろう(笑))歴代医師家系。

 配下の看護師や受付スタッフ連など、同じ人間とは思っていないことが明々白々。


 世の中には人知ではどうしようもできない不条理がわんさかとある……そんな峻厳な事実すら知らずにここまで来てしまった、ステーキ脂肪の、なまっちろい青二才。


「担当医が合わない場合は申し出てください」貼り紙があるが、それを真に受けて、人間ができていないやつに不信任など突きつけたら、どんな目にあわされるか。💦




      🧩




 何時間も待ったあげくの診察はたった数分、それも過半は医師の自慢話で、白衣の腕が伸びて日付印をつかみ「また一か月分処方しておきます」それが終わりの合図。


 何度もお辞儀をして退室するのを待てないように、つぎの患者を呼ぶアナウンス。

 カルテもろくに書いてくれないのか、気に入りの若い女性患者には親切なくせに。


 先生よう、甘く見てもらっちゃ困るぜ、こちとら伊達に歳を食っちゃあいねんだ。

 そう毒づきながら、来月のいまごろもまたここにいる自分のすがたが見えている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かんじゃ 🐮 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ