エピローグ 『聖女ロクサリーヌ』

 カオスリッチを倒した後、ノーストラム墓地のアンデッドも、綺麗さっぱりいなくなったみたいだ。魔法学校の先生たちからは質問攻めにされたし、騎士団関係の人間から学園長まで現れて色々聞かれた。何度もおなじことを説明するうちに、答えるのも慣れてきた。余裕もでてきたので、こっちからも色々聞いて情報を集めたりもしていた訳だ。


 ポコタが聖遺骸を見つけてくれたって話したら、

「ポコタ君とレンちゃんに会いに行って話を聞いたよ」

 と守衛所のおじさんから聞いて、慌ててレンとポコタにも会いに行った。レンとその家族には特上肉と香辛料、ポコタには特上肉がたっぷりついた骨って感じだ。ロクサリーヌの武勇伝もついでに話してやったら

「おねえちゃんってすごいんだね!」

 って目をキラキラさせながら言ってくれて、ロクサリーヌもほんとに嬉しそうにしていた。

「レンちゃん、かわいい! ありがとう!」

 とロクサリーヌはレンを抱きしめて喜んでいたのが微笑ましい。


 そんな話もあったんだけど、混沌の不死王カオスリッチはフラタルム王国の騎士団を、何度も壊滅させたことがあるほどの凶悪な存在だったそうだ。国をまたいで虐殺を繰り返す厄介なアンデッド軍団で、そいつらが通り過ぎたあとは腐った土地しか残らない。人も家畜も等しくアンデッドとして連れ去り従える不死の王が、カオスリッチという訳だ。


 話を聞く限りそういう天災のたぐいと一緒だったそうだ。来る前に逃げるしかない。そんな天災級の存在だった不死王が不死だった理由を解明した。


 さらにその聖遺骸が廃墟の教会にあり、そこに近づく人間を遠ざけ守っていた魔族を信奉する人間と、魔族の集団を倒した上に聖遺骸を破壊した。これだけでも大きな成果といえる。だというのに聖女を魔王に堕とそうとしていた策略すらも見抜き、混沌の不死王カオスリッチを打ち破ってみせた。


 そんな活躍をしたのが勇者、剣聖、賢者、聖騎士などの名だたるジョブではなく、ポンコツと揶揄された聖女と吟遊詩人のたった2人だというのだから、それはもう王宮は大騒ぎになったそうだ。


 そのためか俺のジョブが吟遊詩人だったという事実は伏せられ、「麗しき聖女とその仲間たちが不死王を打ち破った」と公表されフラタルム魔法学校では戒厳令がしかれた。ジョブが吟遊詩人という事実が伏せられるのは俺にとっては好都合だ。武闘家と思ってくれてた方がやりやすい。特に異論はなかった。


 お偉い方々の考えることはよく分からないが、父さんは混沌の不死王カオスリッチを倒した報奨金として、金貨200枚を内々にもらえた上に、貴族との繋がりがめちゃくちゃ増えたと喜んでいた。まさに嬉しい悲鳴ってやつだろう。父さんは

「金貨200枚はお前が国王陛下から頂いたお金なんだから自分で考えて使え。お金の使い方は難しい。それが分かるだけでも良い経験だ」

 と言って金貨200枚をそのまま俺にくれた。


 ついでに言えば公表されていない事実を知ることができるレベルの貴族を相手に、本格的に取り引きができるくらいに待遇が良くなった。キラカタルと決闘したことも話したけど父さんからは何もおとがめはなく

「本当によくやった!」

 と上機嫌だった。


 そして俺の魔法学校での待遇が変わっていた。俺が歩くと道を譲る生徒たちまで現れた。それなのに貴族たちは逆に甘い汁を吸えるかもしれない、と思ったのか俺に話しかけてくる連中が増えた。俺はそんな貴族たちに辟易へきえきとしていた訳だ。


 けれども俺に下手にかかわれば何をして怒りを買うか分からない、と考える人がほとんどだ。俺に決闘を仕掛けてきたキラカタルとそのとりまき、そしてキラカタルを援護したシュワルツマー先生の周辺には人が集まらなくなった。


 王族の庇護に入るしか身を守る術が思いつかないキラカタルは、第一王子のご機嫌伺いに必死のご様子だ。ロクサリーヌに話しかけてくることも、俺に文句を言ってくることもなくなった。


 そんな中、我ら2人パーティの聖女ロクサリーヌは俺に話しかけてくる。


「私の両親と村のみんなの仇を討たせてくれてありがとうございました」

 とロクサリーヌはお辞儀した。

「いや、俺もあのカオスリッチには恨みがあったからな。ロクサリーヌに感謝されることでもない。カオスリッチは俺の師匠の仇でもあったんだからな。それよりロクサリーヌこそ周りが大変なんじゃないのか?」

「何がですか?」

「いや、カオスリッチを倒したことになってるだろう? それを聞いた貴族が甘い汁を吸おうと近寄ってくるんじゃないのか?」


 俺に近寄ってくる厄介な貴族たちを思い出しながら聞いてみた。


「なに言ってるんですか? むしろ今の方が私は静かで快適だって思ってますよ?」

 とあっけらかんと言うロクサリーヌだ。

「なんでそんなことになるんだ? 王国騎士団を壊滅させたこともあるカオスリッチの存在のでかさを考えれば、貴族がすり寄ってきて当たり前だろう? おかしくないか?」

 と疑問に思ったので、そのまま考えたことを言葉にした。


「たはは~。それはですね。カオスリッチを倒す前の私はポンコツ聖女って見られてたから、ジョブの名声を利用しようと考えた貴族ばかりだったんです。ところがですよ?」


 とロクサリーヌは人差し指をビシッと立てて、こう言ってのけた。


「混沌の不死王カオスリッチと呼ばれた強大な敵を倒した聖女と仲間たち。でも、その仲間は誰か公表されてないんですよ? 私は『ポンコツ聖女』から、『混沌の不死王を倒した仲間をもつ宣託の聖女』って認識に変わったんです。そんな聖女を悪意をもって利用したら報復に何をされるか分からない。恐れたがゆえに近寄ってくる貴族は前より減ったので、私はとっても快適です」


 なんてロクサリーヌは笑ってみせる。そんなしたたかになったロクサリーヌを俺は呆然と見ていた。


「だから『ガザセルさんについて行くように』っていう宣託を私は信じます。『避けることができない』んじゃないんですよ? ガザセルさんと『一緒に立ち向かう』んです! ガザセルさんとならどんな困難も乗り越えていける。そんな気がするんです!」

 ロクサリーヌは晴れ晴れとした顔をしていたが、少しうつむいて小声で呟いた。

「こんな私になれたのはガザセルさんのおかげなんですよ……?」

「ん、何か言ったか?」

 小さな声が聞き取れず俺は問い返す。


 頬を赤く染めながら、きょとんとした顔をしたロクサリーヌは

「ガザセルさん、ひょっとして照れてるんですか?」

 と言ってきた。

「んなことはないよ。俺は行くぞ?」

「またまた~。私みたいな美少女聖女にお礼を言われて照れちゃってるんでしょう? ガザセルさん!」

「うるさいよ!?」


 頭をかきながら歩きだす俺の顔を見て、にま~と笑ったロクサリーヌ。

「私は聖女だから心がとっても広いんです。そんなひねくれなくていいんですよ? ガザセルさんも可愛いところあるんですね。照れちゃって~。カオスリッチを完全に消滅させた後でも、神聖魔法を撃ってた私を止めてくれた時のガザセルさん、本当にかっこよかったですよ?」

「……お、お前なぁ。真顔で言うなよ」

「ん? 何か言いました? んふふー」


 1回たたきのめして静かにさせたほうがいいのだろうか、と割と本気で悩む俺がいた。けれど、考え込む俺をみて楽しそうに笑うロクサリーヌを見ていると

「まぁ、いいか」

 と心から一緒に笑えた俺もいた。 



 終

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異世界転生した俺は聖女になつかれる~立ちふさがる奴らを会話しながらぶっ飛ばす~ 冴木さとし@低浮上 @satoshi2022

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