第43話 混沌の不死王カオスリッチ③
「ワシは負けん。不死王だからだ!」
と騒ぐのはカオスリッチだ。
「そういう思考停止は死んでるのと変わらない。お前は今はまだ死んでない。ただそれだけの話だろう? 一体なにを勘違いしてたんだ?」
とカオスリッチを俺は
「ワシはアンデッドの最終形態まで昇りつめた、カオスリッチ! あらゆるアンデッドを従えて世界を不毛の地と化す不死王よ。ワシを愚弄するなど許さん。いや許されんのだ!」
カオスリッチの漆黒の目がさらに深く闇に染まる。
「アンデッドの軍団を作ろうがお前に世界は統治できない。全ての種族を殺して、アンデッドとして従えるしか統治する方法を知らないだけだろう?」
俺は腹を抱えて笑いだす。従わないなら殺してしまえ、なんていつの時代の王様だ? 異世界では常識なのか? まぁ、どうでもいいやと思った俺はそのままの感想を伝える。
「殺して自分の下僕にすることでしか他人を動かせない。お前は張りぼての権威をかざした寂しい王様だ。実に混沌という名を冠するお前にお似合いのいい名前だ。混沌しか巻き起こせない、まさに二つ名、その通りだ」
俺は嫌味も込めて腹の底から笑ってみせる。
「人を殺してアンデッドにして従順な手下にしてさ、それで一体なにがしたいんだ?」
「世界を支配するためだ! 全ての人間どもがワシを敬うようにするためだ!」
それを聞いた俺はほんとに呆れて口をあけて硬直してしまった。顔の真横をカオスリッチの杖が通り過ぎていく。隙だらけだった。あぶねぇ。気を付けないと避けられる攻撃を喰らってしまう。
「お前な。ロクサリーヌをお前が嗤うのも自由だが、俺がお前を嘲笑うのも自由だよな? 殺して敬わせるってお前……。それって相手は死ぬまでお前を敬わなかったって証明じゃないか。バカなのか? お前はたった1人の道化師だ。これだけは言える。お前は偉大な不死王様なんかじゃ絶対ない。誰からも認められなかったって証拠じゃないか」
俺は笑いすぎて腹が痛くなってきた。それでもこの道化師の王様は
「黙れ! ワシこそは不死王よ。全てのアンデッドを従える無敵の存在じゃ!」
と大声を出して威嚇してくる。
「不死王って自慢げに言われても俺もどうリアクションとっていいんだか悩むけどな。だってお前の頼みの綱の『逆さの十字架』はもうないぜ? お前の
「な、なんじゃと……?」
「聞こえなかったか? 不死の
「バカな! そんなことがある訳が、あの聖遺骸に気づいたとしても壊せる人間がいる訳がない!」
「ここにいたんだよ……。それだけの話だ」
「ありえない! そんな話は信じんぞ! どこまでもワシを愚弄する痴れ者め! その口、殺してふさいでくれようぞ!」
それでも俺は気にせず話を続ける。
「カオスリッチが村人と家族を虐殺した相手だ、と知らされた子供は
そう、俺はこの問いの本当の答えが知りたかった。
「ペトリシアを利用したのも、人を殺すのも全て魂の格を上げるためだ。ロクサリーヌを生かしたのも
と俺はカオスリッチを睨みつける。
あれだけ
「ロクサリーヌは死ぬまで混沌の不死王カオスリッチたるお前を追い続けるだろう。そして追い続け追い求め、生きとし生けるもの、そして共に戦う仲間を全て殺されても子供の頃と同じように、たった1人だけ戯れと称して生かされたとしたら? そのとき絶望した聖女は何に存在を変えてしまうのか?」
こう考えれば見えてくるものがある。
「遥か昔のおとぎ話にもあったよな? 『天使長は魔族たちの奸計により魔王に堕ちたのです』ってな? ここから導き出せるもう一つの目的。それはロクサリーヌの心を折り、聖女が堕ちたその先にある『新たな魔王の誕生』」
「……!」
「俺にとってはその反応だけで充分だ」
「お主、ほんとうに何者じゃ? 勇者ではないんじゃろう?」
明らかに警戒と憤怒の色を濃くしたカオスリッチの周りが漆黒に深く染まる。
「……お主、危険な存在じゃな。人間どもと戦うのに、強大な壁としてワシら魔族の前に立ちふさがる。そんな予感がする……。お前はここで死ぬべきだ。いや今、絶対に殺しておかなければならない人間だ! 生かしてはおけん。コケにされてワシは怒りまくってるんだ!」
とカオスリッチの骨すら闇色に染まる。
「今更なにをいってんだか。怒りまくってるって言われてもな……。それは、お互い様だぜ? こっちはサルタ師匠の死、ペトリシアとの別れ。ロクサリーヌをわざと生かして、さらにその両親と村人を皆殺しにしたあげく、その惨劇を思い出させるように再び繰り返そうとした。それは全てロクサリーヌの心を折り、魔王に堕とすためだって言うんだからさ」
俺は目を細め重心をさげて、腹の底から怒りを吐き出す。
「こっちはずっと
そう言って俺はコイツの胸部をめがけて拳を振りぬく。今度はさっきの威力の比じゃない。俺自身の強化だって天井知らずだ!
混乱してるカオスリッチを正面に見据える。コイツが嗤っていたロクサリーヌは、腐敗魔法を回復し俺たちには効かないことを証明して見せた。
ならば、あとは俺が役割を果たすだけだ。
「我がつかさどるは炎の演舞」
強化魔法を俺自身にかける。俺が攻撃してロクサリーヌが援護して敵を倒す。それが俺たちのパーティだ。
「1回死んで今まで殺した人間に、泣いて謝れバカ野郎!」
俺はカオスリッチの杖の攻撃を右腕のガントレットで弾き飛ばし、体勢が崩れたところに拳の連打を畳みかける。拳で殴り無酸素運動を続けながら、無詠唱で強化したファイアランスを俺の身体を中心に円をとりまくように展開し、カオスリッチに連続で撃ち放つ。もちろんビットも無詠唱で交互に発動させる。
「お主、魔法まで使えたのか……!」と、カオスリッチはたじろぐ。
「お前は魔法が好きだろうと思ってな。大サービスだ。遠慮なくもらってくれ」
そして炎に包まれたカオスリッチの腰椎を連続で殴りつける。くの字に身体が曲がり、頭が下がったところを狙い渾身の踵を打ち下ろす! 俺の踵はカオスリッチの冠を砕き頭蓋骨を粉砕し、そのままの勢いで身体も木っ端みじんにしてみせる!
「断末魔もいらねぇよ」
俺はカタカタ震えるうるさい骨を踏みつぶした。そしてカオスリッチだったものは小さな骨の欠片になった。
「ロクサリーヌ、出番だ。ありったけの魔力で神聖魔法をぶつけてやれ」
無言で頷いたロクサリーヌは神聖魔法をかけた。小さくなった骨の欠片は魔法の耐性もおちてるみたいだ。カオスリッチだったものは、ロクサリーヌの神聖魔法で全て塵となって光に溶けて消え失せた。
「お父さん! お母さん! ……ペトリシア!」
とロクサリーヌは泣きながら、カオスリッチの残骸があった場所に神聖魔法をかけ続けた。俺はそれを止め
「復讐はこれで終わりだ。これからは笑って生きよう。それが俺たちにできる精一杯の幸せな生き方だ」
俺の胸に顔をうずめ泣きじゃくるロクサリーヌを抱きしめた。ロクサリーヌの慟哭だけが、不死王カオスリッチが滅んだこの場所に響き渡っていた……。
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