第42話 混沌の不死王カオスリッチ②

 このカオスリッチは漆黒をまとった骨の残骸のようにも見えてくる。恨みを元に強くなるのはいいんだけど、生きてるうちに強くなろうと思わなかったんだろうか?


「お主はふざけているのか? ワシがここにいるということは、この町が滅びるってことだ。いずれはこの国も死ぬのと同義なんだが。そこのところ分かっておるのか?」

 とカオスリッチは聞いてきた。


「お前に心配されてもな。そう思うなら回れ右して別の国に行ってくれ。そうすれば、お前みたいな混沌の不死王とかいう二つ名持ってるアンデッドと俺が戦う必要なんてなくなるんだからさ」

「そんなことをする理由がワシにはない。従う意味すらないだろうが!」

 どれだけの命を奪ったか分からないからこそ、人のいうことを聞く耳はもってないか。


「お前みたいな骨は骨らしく墓場で涙ながして眠ってろ。未練たらたらで血迷うな」

「ガキが!」

 と怒りのままに杖で殴ってくる時点で人間を舐めてるんだよな。腐敗の魔法がコイツの本質だろう。俺は時に受け流し、はじき返す。アンデッドだろうが、格が違うカオスリッチだろうが、いくら杖を振ってきたって元は魔導師だった人間だ。そんな攻撃は恐れるようなものじゃない。


「俺の心からの忠告だ。早いとこマジになった方がいいと思うぜ?」

 稼いだ時間は充分だ。


「す、すごい。私には何が起きてるかほとんど分からないのに。これ回復魔法をかけてもいいのかしら」

 とロクサリーヌの呟きが聞こえた。

「回復魔法でこのカオスリッチはダメージ受けるから。自分の残りの魔力量を考えながら、適当に回復魔法を投げてくれればそれで充分だ。最期のトドメの魔力くらいは温存しておいてくれ」

 と答えた。


「お主。ワシを愚弄してるのか? そんな舐めた態度でワシを本気にさせて後悔するなよ?」

 と俺の答えに、激怒する混沌の不死王だ。建前でもお前、強敵だったな! 生まれ変わったらまた戦おうぜ! とか認め合える相手ならいいんだけどさ……


「お前さ。何人の命を喰らって、ここまで態度でかくなったんだって話なんだよ。何人の幸せ踏みにじって、ここまで強大な力を得たんだって話なんだよ!」

 と俺はカオスリッチの攻撃を回避し答える。


「攻撃が得意じゃない聖女1人に勝ったからって何を喜んでいるだ。俺たちはパーティーだ。聖女のロクサリーヌは生きてる。そして攻撃が得意な俺がいる」

 と俺は話す。怒りをこめて

 

「お前みたいなアンデッドに理不尽に殺された人の気持ちを考えたことがあるのか? なぜ殺されなくちゃいけなかったかも分からず死んだ人が、どれだけ悔しかったか、死にたくなかったかも、その人がどれだけ愛されていたかさえも、想像もできないお前にはきっと分からないだろう! 分かってないからこれだけたくさんの人を殺せるんだ!」

 と俺は吼える。


 ついに詠唱を始めるカオスリッチ。アンデッドの上位存在だけあって、聞いたこともない魔法の詠唱だ。


「お主ごときに、この魔法をみせるのは不本意だが仕方ない。この土地は不毛の大地と化す。その魔法をお主に1人集中させる。お主がワシを怒らせたからだ!」

「自分が勝てない理由を俺のせいにするなよ。お門違いって話だぜ?」


 とはいえ、相手は切り札の魔法を詠唱中だ。規模はこの辺り一帯を不毛の地と化す程の高威力だそうだ。それを俺一人にぶつけるの? でも今コイツ隙だらけだな。俺はグッと足に力をいれて一気にカオスリッチの懐に飛び込み、胸部をひたすら殴る。スケルトンぽいカオスリッチに効果あるかどうかは怪しい。


 けれども詠唱してる以上、肺があると思われる胸部をとりあえず潰しておくのがいいかと考えた。一方的に俺は殴り続けた。俺からダメージを喰らい続けていたがそれでもカオスリッチは詠唱は完了したようだ。


「この魔法にて死ぬがいい! あらゆるものを腐らせ削ぎ落す。腐敗魔法バイオ!」

 

 とうとう混沌の不死王カオスリッチの切り札ともいえる魔法を唱えてきた。それをビットを無詠唱で連続して発生させることで疑似的な無敵状態で耐える。


「ウォッシュ! キュアリ―! ウォッシュ! キュアリー!」

 俺の全身をウォッシュで綺麗にしてキュアリ―を何度も繰り返すことでロクサリーヌは腐敗の状態異常を綺麗に治してみせた。


 生活魔法ウォッシュと回復魔法で綺麗に傷が治るんだっけ、その応用か。でも生活魔法が得意な聖女様っていったい。と思ったが、カオスリッチの切り札を何事もなかったかのごとくロクサリーヌは治してみせた。


「バカな! 少なくても100年は不毛の大地に変えるワシの腐敗魔法じゃぞ。それをこんな小僧と小娘ごときに、何もなかったことにされたというのか!?」

「ははっ。カオスリッチが驚くほどの生活魔法と状態異常の回復魔法か! いいじゃないかロクサリーヌ!」


 一撃を無効化するビットはダメージを与え続ける腐敗魔法バイオにはちょっと相性が悪いか。無傷って訳にはさすがにいかなかったか。だが上出来だ。口からでていた血を親指でぬぐい俺は続ける。


「カオスリッチさんよ。切り札を切ったらもう最後、脅しは効かないと思えよ! そろそろこの戦い終わらせてもらうぜ」


 混沌の不死王カオスリッチにニヤリと俺は笑ってみせるのだった。

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