第41話 混沌の不死王カオスリッチ①

 頭をワシワシとなでられた。私は子ども扱いしないでほしい、と思った。


「特攻は俺が死んでからにしてくれ。それだけは約束だ。生きてる間は俺を信じろ。必ずアイツを倒してロクサリーヌの家族とペトリシア、そして今まで殺された人たち、全ての恨みは晴らしてやるさ」

 とガザセルさんは話す。カオスリッチに


「ロクサリーヌの泣いてる顔も捨てたもんじゃないな。俺も全力でやってやろうって気になった」

 とガザセルさんが言いだした。

「えっ? な、なに言ってるんですか」

 と戸惑う私。この人なに真顔でこんなこと言ってるんだろう? と思った。でも、ここからよ。なけなしの魔力でガザセルさんをサポートするんだ。それが私の聖女としての役割だと、そう思った。



 ☆ガザセル視点☆


「という訳でこちらの話は完了だ。待っててくれて礼を言うぜ」

 俺はニヤリとカオスリッチに笑いかける。

「最期の別れの言葉だろう? それくらいの余興を許さないほどワシは焦っておらんのだ」


「ははは。そりゃぁ、助かる。そんなに余裕ぶっこいて焦らないのも、自分に有り余るほどの時間があると思っているからだろう? お前、アンデッドだからって自分が死なないとでも思ってるんじゃないか?」


「ふん、ワシは混沌の不死王カオスリッチ。生物の概念すらも超越したアンデッドの不死王よ」


「不死王だから死んだって生き返れるなんて思うなよ? 俺がお前にもたらすのは厳然たる死だ」


 カオスリッチは首を傾げる。


「厳然たる死だと? たかがお主ごときにそんなことできるはずがなかろうて。何をたわごとをほざいているんだか」


 と身体全体でカタカタと骨を振るわせて嘲笑あざわらうカオスリッチ。


「ついでに言っておくとな、お前さ。骨も残らないと思ったほうがいいぜ?」


 あいさつ代わりに右手で殴る。吹っ飛ぶカオスリッチ。そりゃそうだ。あれだけしゃべる余裕があったんだ。俺は強化しまくりだ。たっぷり全身強化してぶん殴る。


 骨だから表情もクソもない。俺はカオスリッチに


「頭だけ震えてるな。怒りで頭がいっぱいか? カオスリッチ。アンデッドの王様のお前を消滅させる手段がないって思ってた?」

 と問いかけ

「なんの意味もないただのアンデッドから不死王まで這い上がったお前の生涯と、俺とロクサリーヌの因縁と、全ての答え合わせといこうじゃないか!」

 と混沌の不死王カオスリッチに俺は笑いかける。


「こちとら神の宣託を聞いて一途に行動してくれる聖女ロクサリーヌがいるんだぜ? 両親、仲の良かった村人を殺した性悪なアンデッドを探して、ドス黒い衝動さえも抑えつけたロクサリーヌがな」


 俺はロクサリーヌを見つめる。急に見つめられて、ワタワタしているロクサリーヌだ。サルタ師匠の無念の死、ペトリシアを利用したこと、そして抑えられないこの殺害衝動。カオスリッチに全てぶつけてやろうじゃないか。


「アンデッドが何百年生きようが、どんだけ力を蓄えようが、それを更に超えていくのが人間の英知だ! 死んで思考が止まったお前ごときに負ける道理がないだろう! 人間を舐めるなよ!」


 さらに左右の拳でカオスリッチを俺は殴りつけ吹っ飛ばした。


「いつまでその余裕かました態度でいられるか興味はあるが、にやけた顔をやめたときにはもう遅い」


 俺は割と本気でこのカオスリッチに言ってやる。親切心からなんだけど、コイツにはそこら辺も、分かってらえないんだろうなぁ。


「カッカッカ! いつまでだってにやけておるわ! お主にワシは倒せない。どれだけの力をワシが得たと思っている? 生きてる人間の魂を取り込んで、どれだけアンデッドとしての格が上がったと思っている?」


 アンデッドの格って言われてもな。どれだけ凄くてもアンデッドの見た目では、俺には全く分からないってお話だ。


「じゃぁ、ついでに教えてくれよ。村人を全て殺したのにロクサリーヌだけを逃した理由はなんだ? お前らは生命感知で、ロクサリーヌが生きていると分かっていたはずだ。なぜロクサリーヌを生かした? 聖女だと分かっていたからか?」


 考えれてみれば変な話だ。アンデッドは目でみて生死を判断してる訳じゃないと思われる。そもそも目がないからな。だとしたら1人残らずアンデッドにされていておかしくない。アンデッドが生きている人間に気づかないはずがないのだから。


「そんなことが疑問か? 理由は聖女だと分かっていたからではない。生き残った小娘がたまたま聖女だった。それだけの話だ。ただのたわむれよ。わざと生かしておいて恨みを持たせ、復讐に燃える相手を殺し従える。死ぬ直前の絶望に歪む顔が見たかった。そしてワシのアンデッドの軍団に加わり、人を殺す姿を見るのが好きだった。それだけのことよ」


「……!」

 今の話を聞いて血が出るほど唇を噛み締めたロクサリーヌ。カオスリッチは嗤いながら腐った理由を話した。不死になるとこうも心はゆがむのか? と聞きたくなった。


「ガザセルさん! 私のことはこの際どうでもいいです。カオスリッチは大地を腐らせ草一本生やせない不毛の大地にすらできる脅威です!」


 カオスリッチの魔力の高まりを感じとり、ロクサリーヌは本気で焦ってるようだ。

「草が生えない土地が、この国にできるのは本当に迷惑だ。元に戻すのにどれだけの時間がかかると思っているんだ。お前は不死でも人間には寿命がある。気長に待ってられないんだぜ?」


 カオスリッチに俺はさらに問い続ける。


「だからこそだ。お前の骨が歪むほどにやけた顔とふざけた態度は、今日で終わりにしないとな。不毛の地がたくさんできたら、俺の明日食べる飯の値段が跳ね上がる。それは勘弁してほしい。他所でやるか、大人しく死んでくれ。ここから逃すつもりなんてさらさらないが」

 と俺は答え、臨戦態勢で構えをとるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る