若葉
西しまこ
第1話
梅の木が青々とした葉をつけていて、よく見ると小さな梅の実がなっていた。葉はその存在を誇り、大きく大きくなろうとしている。
気づけば、花よりも緑が豊かになっている。
雪柳は白い花弁をすっかり散らし、小さな緑の葉を揺らしている。紫陽花の葉も大きくなった。冬のころのあのさみしさはどこにもない。
なんとなく落ち込んでいたけれど、頑張ろうかな、と思う。
代り映えのしない日々。
たんたんと会社へ行き仕事をして帰る。仕事内容も三年を過ぎると新鮮さもなくなり、ただこなすだけ。やりがいで選んだ会社ではないから、よけいに虚しさが募る。会社帰りにごはんを食べに行ったりしていた友だちも、結婚したり恋人が出来たりして、いっしょの時間を過ごすことは少なくなった。
何か特別に嫌なことがあるわけではない。
でも、あまりに何もなさすぎて、味気ない。
学生のころは、年度が替わるたびに新しい始まりにわくわくした気持ちになった。でも、社会人になると、ただ毎日が過ぎていき、年度替わりもあまり新しい感じはしない。新入社員が入ってきて、新しい顔ぶれだな、と思うくらい。
友だちに連絡してみようかな、とふと思った。
駅に着いたとき、真由美にLINEを送る。
「久しぶり。元気? 今度ごはん食べに行かない?」
電車に乗ってスマホをチェックすると、返信が来ていた。「いいよ! 今日でも!」
嬉しい気持ちになって、返信をして今日会う約束をする。
どうしてもっと早く連絡をしなかったのだろう? こんなに簡単なことなのに。
「久しぶり! 元気?」
「元気元気!」
久しぶりに会う友だちは全然変わっていなかった。
「最近、どう?」
「仕事と家の往復だよ」
「わたしも! 同期は結婚したりして、なかなか遊べなくなっちゃった」
「わたしも!」
二人で笑い合う。
もっと早く連絡すればよかったね、なんて言いながら、ひたすらおしゃべりをする。最近読んだ本の話、映画の話、アニメの話、音楽の話、いまはまっていることの話。会社のおもしろい人の話。共通の友だちの近況。
話すことはいくらでもあった。
「ねえ、今度、いっしょにネイルしない?」
「ネイル?」
「うん、いま、自分でやるのにはまっているの!」
真由美は桜が入った爪を見せてくれた。
「きれいだね」
「うん、いっしょにしゃべりながらやりたいな!」
週末の予定を入れる。
若葉の勢いがわたしの背中を押してくれた。――よかった、連絡して。
年度のはじまり。わくわくした気持ちとともに何かいいことが起こりそうな予感がした。
了
一話完結です。
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若葉 西しまこ @nishi-shima
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★87 エッセイ・ノンフィクション 連載中 132話
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