第10話 最終話 ナオ帰る

「えっ、ナオさん帰っちゃったの?」

「うん、お兄ちゃんによろしくって」

「え~、そんなあ、まだ話もしてないのに。やっぱりアイツのせいか?」

「でも、そのお陰でお兄ちゃんのベッドで一緒に寝たんでしょ。哲兄ちゃん、『おれからの婚約祝い』と言ってた。『ナオちゃんには嫌われたけれどって』」

「そんなこと言ってたのかアイツ」


 哲之介が銃弾に倒れ、兄弟の立場が入れ替わった。いつも学年トップの成績を誇る哲平は、いくら頑張ったところで所詮人間なんかと虚しさを覚え、あと少しで高校卒業というところで学校に行けなくなった。

 剣道とサッカーにに撃ち込んでいた高校1年の一平は猛勉強し始めた。 

 その頃、一平が付き合っていたサツキが一緒に勉強しようと言って、ちょうど旅行に出ている哲平の部屋に泊まることになった。 

 夜中に喉が渇き一平はキッチンに行こうとし、声が聞こえた。

 哲平の部屋の扉が僅かに開いていて女性の美しい背中が見えた

 旅行中の兄が帰って来て、女の子を連れ込んでいると思った。

 それならサツキはどこに行った?

 翌朝、隣で朝食を摂るサツキは何事もなかったような顔をしていた。

 ナプキンを落とし、拾い上げるレイが驚きの声をあげた。


「あっ、哲兄ちゃんとサツキちゃん、テーブルの下で手を繋いでる」

「えっ、サツキさんは一平の彼女じゃないのか。そんな節操のないことやめろ」


 哲之介の怒りを買い、哲平は家を追い出された。

 今は母親の所有するマンションで暮らしている。


「で、お兄ちゃん、同じベッドで何もしなかったの?」

「ナオさんが、何もしたらダメって言うんだ」

「だからって、その通りにするなんて」

「でも、アイツが蹴り飛ばされるのを見たんだ。あれを見た直後で、さすがにその勇気は出なかった」

「ねえ、今度ナオさんと韓国行くの。お金出して」

「韓国に何しに行くんだ」

「ナオさんの推しのアイドルグループがいて、ライブ見に行くの。ねえ、いいでしょ」

「だったら、おれが行きたいよ」

「お兄ちゃん、男の子のライブ見たってつまらないでしょ」

「えっ、男なのか」


 珍しく哲之介に呼ばれて、レイは父の部屋に来ていた。


「哲平と一平の間で、また何かあったのか?」

「哲平兄ちゃんがナオさんに手を出そうとしたみたい。何もなかったけど」

「あいつは女の子に不自由してないだろう」

「一平兄ちゃんの大切にしているものは全部手に入れたいのと違う」

「フンッ、あいつは子どもみたいに」



 いくつになっても親の愛が欲しい。

 そんな哲平の心に寄り添えるのは劣等生のレイだけだった。





「うわあ」

「何やの失礼やわ」

「ああ、顔にパックしてたんだね」

「一平さん、休みの日やのに電話に出えへんかったら怒るやろ」

「ぼくのために美しさに磨きをかけてくれているんだ。嬉しいよ」

「何とでも好きに解釈しはったらええわ」

 

 一平とナオの関係は付かず離れずで、これという進展もないままで、それでも楽しそうな二人だった。





【「🏡一平とナオの恋物語💓」に続きます。】

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330656482918767




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2🏡あの不動産屋が帰って来た! オカン🐷 @magarikado

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