第51話 生配信開始です。後編
ヴェルレマリーさんはドラゴンに乗って飛び去って行きました。
気を取り直して配信の続きです。
私は佐々木氏に案内されて、とある場所に足を運びます。
そこには木の温もりに溢れた中世風の建物が建てられていました。
「――ここが聖シャリエッタ教国の中心、冒険者酒場『踊る子兎亭』だ!」
佐々木氏は自慢げです。
「どうだ? 素晴らしいだろう。ここはさっきまで一緒だった茉莉花ちゃんが、丹精込めて設計してくれた酒場なんだぜ!」
私は目の前の木造建築を眺めます。
ふむふむ。
たしかに良い雰囲気の建物です。
無骨だけど落ち着く感じでしょうか。
あ、中を覗いてみても良いですか?
うわぁ、ヘラジカの角が飾ってある!
あれは何ですか?
装飾用のバトルアックスにフルプレートアーマー?
内装や小物にもこだわってますね。
私もお酒は大好きなので、こんなお店で飲みながら雑談配信とかできたら楽しいだろうなぁと思います。
「ふっふっふ。良い酒場だろう? あ、ビール飲む?」
昼からビール配信かぁ。
いただきます!
「よし、一緒に飲むか! おーい、ビール持って来てくれー」
ホールで待機していた獣人の女の子が、笑顔で会釈してから厨房に引っ込みました。
その姿を眺めながら、佐々木氏が説明してくれます。
「ケモ耳メイドさんが交代でホールスタッフとして働いてくれているんだ。いいだろ?」
さ、最高じゃないですか!
ケモ耳さんたちのことは、さっきから気になってたんですよ。
ディアンドル風の衣装がとても良く似合っていて、みんな凄いキュートですよね!
◆
「――ぷはぁ! ビールうめぇー!」
ビールを一気に飲み干した佐々木氏が、空になった木製ジョッキでテーブルを叩きます。
私も見習ってぐいっと煽りました。
ごくごくと喉を鳴らすたびに、キンキンに冷えたビールが火照った身体に沁みていきます。
ああ、美味しい――
ところで佐々木さん。
ちょっと気になっていたのですが、さっきこのお店がシャリエッタ教国の中心地って言ってましたよね?
酒場が中心……。
それって一体どういうことなんでしょうか。
「どうもこうもない。そのまんまの意味だぞ」
佐々木氏はケモ耳メイドさんにビールのお代わりをオーダーしながら、教えてくれます。
「ここは俺がファンタジー風の冒険者酒場を経営するために買った土地なんだよ。そしたらいつの間にかドラゴンやらエルフやら獣人やら天使が集まってきて、あれよあれよと居ついちまったけど、そっちは全部おまけなんだ」
……いやいやいや。
ないない。
ドラゴンやエルフや獣人や天使がおまけって、普通逆でしょ。
どう考えても酒場の方がおまけですって!
そこで私はハタと気付きました。
私ってば、こうして昼っぱらからビールを頂戴しちゃってますけど、この酒場って現在も営業中なのですか?
もしかして、来ようと思えば誰でも来店できます?
「いや、今は休業中だから無理だ。スタッフ募集も一時停止中だしな。……なにせ色々と騒動があったからなぁ」
ですよねー。
「でも酒場は近日中に再開するつもりだぞ? そんときゃ誰でも来店できるようにする。しっかり告知もするつもりだ」
……やばいでしょ、それ。
私は頭を抱えました。
最初から何となくそんな気はしていたのですよ。
こちらの佐々木氏は聖シャリエッタ教国の、世間からの注目度を甘く考えている節が見受けられます。
本当に、めちゃくち注目されてるんですからね!
ちょっとは自覚した方が良いです。
その証拠に……ほら見てください。
生配信中の動画のチャット欄を眺めてみても、もの凄い勢いで――
『冒険者酒場⁉︎ 絶対、絶対飲みにいく!』
『さっきのネコ耳の子、めっちゃ可愛かった!』
『開店はいつですか?』
『Roma non è stata costruita in un giorno』
『沖縄からだけど飲みに行きます!』
『मेरे लिए एक पेय लाओ!』
『北海道から俺も行くぞ!』
『Вы продаете пирожки?』
『あれ? いま天使映ってなかった?』
『日本語以外も混ざってて草』
ね?
追いきれないくらい一瞬で大量にコメントが流れていくでしょう?
同接も増え続けていて、いつの間にか3,000万を超えていました。
ひぇぇ……!
と、とにかく、開店するときはパニックにならないよう、お気をつけ下さいね。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後もユニコーンやペガサスのいるファンタジー厩舎を案内されたり、建設中の宿屋さんを案内されて驚きの連続だった私は、いまはエルフの森に向かっています。
遠目に巨大な樹が見えてきました。
あれ、気になっていたんですよね。
佐々木氏が教えてくれます。
「ああ、あれはエルフたちの御神木だな。なんでもユグドラシルらしいぞ」
ユグドラシル⁉︎
それってファンタジーで定番の世界樹では⁉︎
「そうそう。それだそれ。何でも葉を煎じると怪我や万病に効く薬になるらしい。何枚か持って帰るか?」
い、いいんですか?
「ちゃんとエルフに断りを入れれば大丈夫だろ。あいつら肉以外には結構大らかだからなぁ。後で頼んでやるよ」
……なんか軽いノリで、凄いものを貰えることになりそうです。
実家の母が最近腰を悪くしているので、送ってあげようかな……。
「さて、到着。ここがエルフの森だ!」
うわぁ……!
眼前には森が広がっていました。
木漏れ日に満ちたエルフの森は、なんだか神秘的で侵しがたい雰囲気を醸し出していて、真夏だというのに空気が冷んやりしています。
私は思わず小走りになって、森へと足を踏み入れました。
清廉な空気を胸いっぱいに吸い込みます。
ああ、心地良い。
それで、エルフのみなさんはどこにいるんでしょうか?
「ちょっと待ってろよ。いま呼んでみる。おーい、プレナリェルー! 出てきてくれー!」
佐々木氏が呼び掛けます。
すると気のせいか、葉擦れの音が大きくなったように感じられました。
ざわざわしたその音に隠れて、無線の交信が――
◆
「こちらフェアリーツー。ターゲット、捕捉した」
小さな身体を木陰に潜めたカナリタが、ゴーグル越しの視界にニィチカの姿を捉えている。
「未知の
今度はメルセデスだ。
「こちらフェアリースリー。
プレナリェルが指示を下す。
「こちらフェアリーワン。総員、5秒後に威嚇射撃開始です。オールオーバー」
◆
――タタタタタタタタッ!
何処からかマシンガンの銃声が聞こえてきました。
とか思ったら、私の足もとの地面にポスポスと無数に穴が空いていきます。
ひぇっ!
な、なんなの⁉︎
びっくりした私は、思わずその場を飛び退きます。
すると――
茂みからロープが飛んできました。
ロープは私の両足首に絡みついて、木の枝に私を逆さ吊りにします。
って、逆さ吊りぃ⁉︎
「――きゃ、きゃあああああああっ⁉︎ なななな、なんですか、これぇーっ⁉︎」
私は悲鳴をあげながら、咄嗟にスカートを手で押さえました。
そのせいで生配信中だというのに、撮影機材を落っことしてしまいます。
プロ配信者としてあるまじき失態……!
でもそんなことを自省する余裕なんてありません。
「下ろしてっ、下ろして下さいぃー!」
必死の叫びが森に木霊しました。
すると木陰から複数の人影が飛び出してきました。
その全員が金髪の上からゴーグルを被って迷彩服を着込んでおり、耳が長いです。
「こちらフェアリーワン。
「やったわね、ぶいっ!」
エルフです!
現れたのはエルフたちでした!
「この肉はどうする?」
「いつもみたいに的にしましょう」
ハイタッチを決めたエルフたちは喜びあい、宙吊りにされた私を眺めて、物騒な相談を始めています。
「――ちょま⁉︎ こ、こらー! お前ら何してんだ! ニィチカさんを下せー!」
佐々木氏が走ってきました。
血相を変えながら怒鳴っています。
対するエルフは朗らかで、
「あ、フウタローさん。こんにちは! 見てください。見事に不審者を捕まえましたよっ!」
「ぶいっ」
「『捕まえましたよっ』じゃねえよ! なんでこんな真似をしでかすんだ!」
「なんでって、見知らぬ顔だったから、とりあえず確保しただけよ?」
「ん。フウタロー前に言ってた。不法侵入してくる迷惑系YouTuberは好きにして良いって」
「そ、それは確かに言ったけど、この人は迷惑系YouTuberじゃないの! 俺が一緒に案内してきたんだから、それくらい察しろよ!」
「安心して下さい! まだ威嚇射撃しかしてません!」
「まさにいま逆さ吊りにしてんだろ!」
すっかり観念した私は、宙ぶらりんにされたまま目の前で繰り広げられる口論を眺めます。
あっ、頭に血がのぼってきました。
くらくらする頭で考えます。
聖シャリエッタ教国……。
この地はもしかすると、私のような常人が立ち入るべきではない常軌を逸した場所だったのかもしれません――
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やっと配信回を書ききれました。
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現代日本で楽しむファンタジースローライフ 〜日本の郊外に冒険者酒場やエルフの森を作ったら、本物の姫騎士やエルフたちがやってきました。次々現れる異世界人や神獣魔獣を仲間にして、目指せファンタジーの楽園! 猫正宗 @marybellcat
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