明晰夢

 山河は可愛らしい見た目の鳥を眺めながら体を拭いていた。

 どうやって入ってきたのだろうかと考えながら周りを見る。

 すると、正方形の窓が開いていることに気が付いた。


「なるほど、ここから入ってきたのか。ほら、おかえり」

「ポロッポ―!」


 山河は優しく鳥を持ち外に逃がそうとした。

 鳥は鳴き声をあげながら羽をバタバタとさせ山河の手から離れる。


「害はなさそうだしいっか」

「ポロップー」


 逃げようとしない鳥を同行しても仕方ないと思った山河は、鳥を洗うことにした。石鹸を使っていいか分からなかったため、泥の汚れをぬるま湯で洗い流す。少しだけ鳥の機嫌が良くなった気がしていた。

 そんな時、化粧室の鍵が開いた。

 

「山河、服持ってきたよ。置いとくね――」


 山河は声色から曽谷であると認識した。

 化粧室の扉が閉まったことを確認し、風呂場から出る。


「良く分からないけど、良さそうだなぁ」


 曽谷が持ってきた服は黒色を基調とした寝間着だった。

 山河は曽谷が持ってきた服を着た後、化粧室から出る。


「ちょっと聞きたいんだけれど、この鳥……」

「山河君、その鳥は床に置いといて」

「……? 分かった」


 山河が床に置いた直後、鳥がバタバタと足を動かし空梓の下へ走る。

 空梓は膝にのった鳥を撫でながら「……ありがとう」と呟いた。


「取り合えず座りなよ。山河君」

「ありがとうございます、曽谷さん」


 山河は曽谷が渡してきた椅子に座る。


「折角だし何かお出しするよ。何か飲みたいのある?」


 曽谷が冷蔵庫の扉を開きながら質問した。


「じゃあ、取り合えず水で」

「へぇ、珈琲じゃないんだ」

「苦いの無理なんで」

「なるほどね。はい、どうぞ」


 曽谷は紙コップに冷水を入れ山河に手渡した。

 山河は冷水を一気に喉へ流し込む。

 喉が潤う感覚が身体中を駆け巡った。


「ぷはぁ! 美味しいね、これ」

「そりゃ良かった。さて、ちょっと質問してもいいかな?」


 曽谷は二段ベッドの下段に座りながら山河の顔を見る。


「山河君。君は何で空梓君と一緒に森から出てきたんだい?」

「……それは俺も分からない」

「分からないって答えは不適当じゃないかな。だって君がいた森は異形が出るってことで有名だ。そんな森へ一人で入るなんて自殺行為に近い。けど君は死のうとしていなかった。さっき空梓に聞いた話だとそう解釈できるけど?」

「…………」

「もし君が自殺目的で森に入ったんじゃないとしたら、一つ推測できることがある。山河君、君は"AZUSAの悲劇"によってこの世界にきた来訪者じゃないのか?」

「……AZUSAの、悲劇」


 その言葉を呟いた直後、山河は先ほど見ていた夢を思い出した。


”私が提示する条件はたった一つ。”AZUSAの悲劇”を潰してください”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年は幼馴染を救うために化け物を斬る チャーハン @tya-hantabero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ