風呂と鳥

 山河は空梓達の部屋で一時的に生活することになった。曽谷達が教官に部屋の使用許可を得たからである。その結果、山河は寝床となる場所を手に入れた。


 曽谷先導の下、部屋に入るとアロマの香りが漂ってくる。心地良い匂いを感じた後、山河は部屋の内装を見渡そうとした。


「取りあえず靴脱いで、風呂入ってくれない?」

「え、でも……着替え持ってないよ?」

「服は浴場に行った後で貰うから。ほら行った行った」


 山河は背中を押され、化粧室に押し込まれる。

 ゆっくり過ごしたかった山河は少々不機嫌になったが何とか堪えた。


「タオルはどうすればいい?」

「棚の上に置いてあるやつ使って。それじゃ、私達行ってくるから」

「……またな」


 扉が閉まる音が聞こえた後、山河は化粧室から出ようとしたが入ってきた扉には鍵がかかっていた。閉じ込められたことを悟った山河は俯きながら服を脱ぐ。溜息をつきながら風呂場の扉を開けると電気がつき、お湯がはったFRP浴槽やシャワーがあらわになった。


「驚いたな……この世界の風呂は日本式なんだ」


 山河にとってこれは嬉しい誤算だった。

 体を洗い、湯船につかる。

 適温のお湯が身体中の疲れをとっていった。


「やっぱり日本の風呂は良いねぇ――」


 山河は湯船にゆったりと浸かりながら休んでいた。


「それにしても、お父さんとお母さん大丈夫かなぁ」


 山河は頭によぎった心配を口にする。

 あちらに身体が存在していれば良いが、万が一行方不明になったら両親にとって多大な不安を与えることになる。


「けど、考えたところで仕方ないな」


 山河にとっての現実は今ここである。

 二週間後の異形退治に失敗すれば山河は殺される。


「今はとりあえずこの世界について知ろう」


 山河は湯船から身体を出し風呂場から出ようと扉に手をかける。

 次の瞬間、扉を開けた山河に何かが体当たりした。


 山河は驚き尻もちを搗き、痛みのあまり涙が出そうになった。

 何事だと思い、山河は目の前の生物に目をやった。


「ポロッポ―!」


 そこにいたのは、猫程度の大きさを持った愛くるしい見た目の鳥だった。

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