理不尽

 山河は空梓、曽谷と共に白大理石で舗装された廊下を歩いていた。歩く度、靴に付いている泥が床を汚していくのを眺めながら申し訳なさを感じていた。


「そういえば、君は何であの森に居たの?」


 曽谷がおちょぼ口を開き質問する。


「何でって言われてもな……良く分からないや」


 山河は曽谷の目をしっかりと見ながら返答する。

 先程の夢で何か聞いたのは覚えているが詳細を忘れたのだ。


「ふ――ん、そっか。ならいいや。さて、着いたよ」


 曽谷が見つめている方へ山河も顔を向ける。

 瞳が捉えたのは「異形討伐専門教官室」と書かれた黒標札がある部屋だった。


「ここが目的の場所だよ。入ってみて」

「わ、分かった」


 山河が異様な緊張感を感じつつノブに手を伸ばしていた時だった。

 

「ふわぁ~~良く寝たなぁ~~」


 黒軍服を纏った男が部屋から欠伸をしながら出てきた。

 ぼさぼさの髪とコバルトブルーの瞳を持つ端正な顔立ちの男だ。

 男は山河達に気が付くと笑みを浮かべる。


「空梓ちゃ~~ん、彼ってこの学園の生徒ぉ?」

「……いや、違う」

「違うかぁ~~じゃ、異形の餌にしてもいいよねぇ?」

「……え、ちょ、は?」

「だって君ぃ、関係者じゃないのに学園入ったんだよぉ~~? 不法侵入罪だよ。だから異形に食べられても文句言えないよねぇ~~??」


 男が笑みを浮かべながら山河に対して質問する。

 山河は額に汗を浮かべながら答えを模索した。

 しかし、好ましい答えが一つも出なかった。


 一分間の静寂が流れた後、男が口を開く。


「けどまぁ~~うん、生き残りたいならチャンスあげてもいっかなぁ~~? どう思う、曽谷ちゃあ~~ん?」

「私は良いと思いますよ。戦力が増えるならそれに越したことないですし」

「ふぅ~~ん、それもそっだねぇ~~じゃ、あげちゃおっかな!」


 男は両手を鳴らしてからとんでもないことを提案した。


「君、一週間で異形討伐してね。特別に空梓ちゃんと曽谷ちゃんも一緒にしてあげるよ。しくじったら異形に食べてもらうからね! じゃ、俺寝るから!」


 男は早口で喋った後、教官室へ戻った。

 鍵が閉まる音が響き渡った後、横に立っていた曽谷が山河の肩を右手で触った。


「……ドンマイ、山河君」

「こんなことってあるのかよぉ――!?」


 山河はこの世界に来て初めて激昂した。

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