ようこそ私立繋邂学園へ

 黒長ズボンと白ワイシャツを身に着けた絹のような勝色かついろの髪と橙色の瞳を持つ少女が一人、両手を後頭部に置き星を眺めていた。


「皆それぞれ一番になろうと頑張っていて綺麗だねぇ」

「そこの君、そろそろ戻りなさい。体を冷やしますよ」


 刑事服に似た服を纏う黒髪黒瞳の青年が少女に帰宅するよう促す。


「そこのじゃないです、私は名前があるので名前で呼んでください。それに門限まで時間ありますよね。じゃあなにしたって自由じゃないですか」

「……まぁ良いだろう。ただ、十時になったら門を閉めるからな」

「はいはい、分かりましたよ」


 青年は面倒臭そうな表情を浮かべながら少女の前から去った。少女は肩から力を抜き森の方を眺める。すると、人が二人森からゆっくり降りて来るのが見える。

 そのうちの一人の顔を捉えた途端、彼女は走り出していた。


「空梓ちゃん! 無事だったのね!! 良かったぁ」

「……苦しい」

「ご、ごめんね! ついつい嬉しくて!!!」


 少女は空梓から両手を離すと深々と頭を下げた。

 そして、彼女の後ろにいる少年に声をかける。


「君は一体誰だい?」

「俺の名前は叢雲山河。さっき空梓さんに助けてもらったんだ」

「叢雲……? ごめん聞いたこと無いや。私達と同期?」

「同期……? どういうこと?」


 少女は神妙な面持ちを浮かべながら首を傾げている山河を眺める。彼女達の常識を少年は知らなかったからだ。何故少年は知らないのか。そんな疑問が彼女の脳を支配していく。


「……時間だぞ」

「あっ、そうだった! 取り合えず戻ろうか! もちろん、貴方も来てね!」

「あ、あぁうん」


 山河は二人の少女に連れられて高い壁に囲まれた煉瓦様式が特徴的な歴史のある建物に入っていく。横目で眺めた表札には私立繋邂学園と漢字で書かれていた。


 彼ら三人が中に入った直後、甲高い金属音が鳴り響く。何事かと後ろを見ると、鉄格子が閉じられていた。門限があるんだなと山河が考えていると少女が話しかける。


「自己紹介まだだったね。私は曽谷美玖根そだにみくね。この私立繋邂学園しりつけいかいがくえんに通う新入生さ!」


 曽谷と名乗る少女は左胸に右手を当てながら背筋を伸ばす。

 山河はそんな彼女に目もくれず空梓に話しかけた。


「とすると、君もここの新入生なの?」

「……あぁ、そうだ」

「ちょっとちょっと――! 反応してよぉ――!!」


 曽谷は頬を膨らませながら山河に肩を組んできた。


「取り合えず、さ。私達と仲良くした方が良いと思うよぉ――? 追い出されたら、君は死んじゃうだろうしねぇ――」

「っ……わ、分かりました」

「ふふっ、じゃあ一緒に行こうか!!」


 山河は曽谷主導の下、一緒に行くことになった。

 彼はまだ、自分がどこに行くのかは知らない。

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