邂逅
山河はふいに目が覚めた。不思議な夢を見た気がするが、鮮明に思い出すことは出来なかった。妙な寒さがあるなと感じつつ、山河は両肘を用いて背中を起こした。
瞼を擦り視界が鮮明になると鬱蒼とした木々と落ち葉が瞳に映った。月明かりがある為か視界が不鮮明では無いものの正確に状況を判断することは難しかった。
落ち着く目的で深呼吸を行うと身に着けた白ワイシャツの胸元が膨らんでいく。
妙に現実味がある夢だと思いつつ、山河は状況確認をしようとしていた。
そんな時だった。がさりと木々をかき分ける音が聞こえてきた。
山河は何事だと思いながら音が鳴った方向にゆっくりと首を向ける。
「うわぁ!?」
山河はそれを視界に捉えた途端に体を投げ出した。左半身に冷たい感触が走る。だがそんなことを考える余裕が山河には残っていなかった。目の前の化け物にただ恐怖を感じていたからだ。
その化け物は巨大な
鮫特有の腐乱臭が鼻腔を刺激する。これが現実では無いかと山河が思った時、既に化け物は牙をむいていた。予想外に振り
このまま食べられて生涯を終えると思いながら山河は目を瞑る。しかし、予想した痛みが来る気配は一向に無かった。瞳を開き目の前で起きている状況を確認する。
そこにいたのは黒軍服に似た服を身に着けた細い体躯が特徴的な女性だった。その女性は肩まで伸びた黒髪を揺らしながら鮫の化け物に武器を振るう。
眼で正確に追うことが出来ない中、鈍器で何かを殴る鈍い音が響き渡る。それが何十回も響き渡った直後、何かが倒れる音が響き渡った。
山河は感情の赴くままに走り出した。最悪の状況を考えることすらも無視し、ただ自分の直感に任せたのである。五百メートル程度走った後、山河の瞳に映ったのは鮫の死骸を背に鮮血の付いた日本刀を麻模様の布で拭っている少女だった。
その少女の顔を見た途端、彼は目を見開いた。何故ならその少女の顔は彼の幼馴染である舞原と瓜二つだったからだ。
なぜ彼女が戦っているのか、なぜ彼女がここにいるのか。
山河が必死に考えても解を導き出すことは出来なかった。
「……無事だったか。良かった」
少女が和紙で刀を拭きながら言葉を呟く。ゆったりとした声は舞原とは異なるなと思いつつ山河は問いかける。
「助けてくれてありがとう。俺の名前は
「……
山河は名前を聞いた途端、二つの可能性が浮かび上がった。
しかし、今はそれを考える時では無いと直ぐに割り切る。
「空梓さん……か。助けてくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「……どう、いたしまして」
空梓と名乗った少女は入念に日本刀の刃を確認した後、鞘に刀をしまった。立ち振る舞いが綺麗だなと山河は感じていた。
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