神社のマンホール

@sho-pasta

神社のマンホール

俺は何気なく生きてきた。この町で生まれて今もこの町で普通のサラリーマンとして働いている。


土曜日の夕方。週末の食料の買い物にいった帰り、ふとクラブ帰りの小学生の会話が聞こえた。家の帰りもその方向だったので、少し聞き耳をたてた。


~ねぇねぇ、ゆーれーの話知ってる?~


~あそこの神社の?~


~そうそう。夏になるとよく聞こえるって~


~ウラメシヤーとかだろ?~


~うめき声みたいのらしいよ~


~なーんだ~


~『ろーごーめー』って~


いつもなら、そんなの風の音だろって思うところだが、最後の話し方が俺の頭に引っ掛かった。


今日は神社でお祭りがある。小さな夏祭りだ。屋台が3つほどあって、そこに子どもが集まって、おねだりをしていた。


俺はりんご飴を2本買った。


俺にはさっきの小学生の怪談話が、俺のかつての友のことをいっているように感じた。


まだ7歳の頃、その友の名はあつしといった。いつも『あっちゃん』と呼んでいた。あっちゃんは『ん』の発音ができずに、好きな食べ物のりんご飴もろーごぁめといった。

その頃、神社の奥に井戸があった。その夜も夏祭りで屋台でりんご飴をそれぞれ買って井戸の近くで食べた。夏の夜、水のある近くは涼しかった。『なーでここはすずしいの?』

あっちゃんはそう言って井戸を覗き込み……


物思いにふけっているとかつて井戸があった場所にたどりついていた。あの後井戸は蓋をされて、いつしかマンホールになっていた。


俺は、マンホールの蓋の上に、りんご飴を置いて立ち去った。

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