大切なモノゲットしました!(回答②)
怜音君から貰い受けた黒いパーカーを腕にかけて、隣の病室のフタヒロ先輩を覗いてみれば、丁度儀式がひと段落したところだった。
そうだわ。今度は儀式の様子も見せてもらわないと。
私に気づいたフタヒロ先輩。
「おう、お疲れさん。で、何枚くらい入ってた?」
と気軽な調子で尋ねてきた。
何枚? 一体何の話かな?
「あの……あの子はまだ十歳のいたいけな少年なので」
「ん?」
「そんな子はお金なんて持っていないし、ましてや命をあげるなんて言われたら、困ってしまって……でも、彼の大切なモノはちゃんとこの通り、ゲットしてきました!」
なるべくそれらしく、恭しい仕草で黒のパーカーを差し出す。
「お前、何をごちゃごちゃ言っているんだ? あの子は十歳だけど相当稼いでいるぜ」
「はい?」
「もしかしてお前、あの子が天才子役でモデルの
「それはどういう意味でしょうか?」
天を仰いだフタヒロ先輩。チロリと私の腕のパーカーに目を止めた。
「それ、何?」
「対価です」
「はあ? お前はお使いもできないのかよ。あの子には対価としてサイン入りブロマイドやグッズをできるかぎり持ってくるように言ってあったんだよ。だから、それを貰ってくるだけで良かったはず。何丸め込まれてんだよ」
「丸め込まれて?」
「……お前、天使の演技に騙されたな。どうせ慈悲心を出して何にもいらないとか抜かしたんだろう」
サイン入りブロマイド? 貰ってくるだけで良かった?
そんなの最初に言っておいてくださいよ!
フタヒロ先輩のほうこそ、指導係なのに言葉足らずなんですよ!
喉元まで出そうになったが、必死の思いで抑えた。
そして、さっきの健気な少年のうる瞳が、全部演技だったと知って呆然自失となる。
そんな……
「あの子、今すげえ人気なんだよ。『国民的天使』とか『みんなの弟』とか言われてな。だから、サイン入りグッズをネットで販売すればいい値段になる。場合によってはプレミア付きで値段もうなぎのぼりのウハウハ。その目論見が全部パア~かよ」
がりがりと頭を掻きながらため息をつくフタヒロ先輩。
そんなこと今更言われたって!
知りませんよ!
ブスブスと燻る心。
「で、そのパーカー一枚か」
伸ばされた手に自動的にパーカーを引き渡した。
あーあ。やっぱり理想と現実は違うのね。
どんな叱責が降ってくるかと身構えた時、「おっ」とフタヒロ先輩の目が輝いた。
「これ、ジバ〇シーのじゃねえか。高級ブランド! 響怜音がモデルを勤めているんだよな。しかも本人着用版。サイン……なんてねえか。うお! 名前。しかもタグに本名書きって私物だな。うほー! こりゃレアじゃん、お宝じゃん。推しオタがヨダレ垂らして欲しがりそうな一品じゃん。でかしたぞ。新人!」
「はぁ」
何が何だかわからないけれど、どうやら両親三十年の寿命を延ばした対価にはなったらしい。
ほっとしたやら、虚しいやら、なんとも言えない気分になった。
あーあ、初日、散々だったなぁ。
そんな私の表情に頓着無く、フタヒロ先輩がポツリと言う。
「生き馬の目を抜く芸能界で渡り合っているんだ。あのガキ、相当に切れ者だぜ。だけど、人気のせいでパパラッチに追いかけまわされて今回の事故にあったんだよな。それは可哀そうだったけどよ」
そっか。全部が演技ってわけじゃ無かったんだろうな……
荒みかけていた心がふっと軽くなる。
彼は天才子役なのかもしれないけれど、でも、家族を思って流した涙は本物だったに違いない。
そう思ったら、怜音君の無垢な笑顔が脳裏に蘇った。
実地訓練は始まったばかり。
凹んでばかりはいられない。
「あー、カレン。その、なんだな。悪かったな。お使いもできないなんて言って」
「へ」
「イレギュラー案件が入ったからと言って、ちゃんと説明もせずにお前を放置したトレーナーの俺の責任もあるからな。でも、よくやった。まずは初日、お疲れさん!」
ちょっとバツが悪そうに笑ったフタヒロ先輩。
そう言って、ポンと私の肩を叩いてくれた。
フタヒロ先輩とも出会ったばかり。口は悪いし言葉足らずで言ってることよくわからない先輩だけれど……これから少しずつ分かり合っていくしかないんだろうな。
「これが売れたら、今度は出世払いなしであんみつを奢ってやる」
「うわぁ! あんみつ」
あんみつって何だろう?
そう思いながらも、新しいこの世のことを知るって楽しいと思い始めた今日この日。
思っていたような死神デビューでは無かったけれど、色々お勉強になった一日だった。
(第二回目につづく)
死神の小遣い稼ぎ (ハーフ&ハーフ3) 涼月 @piyotama
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