後編
娼館に通い始めて一年くらい経った頃。
俺は、ある娘と親しくなった。
さっぱりした気立てのいい娘で、セクロスするより喋っていた時間のほうが長いこともあった。
その娘は貧民街の出だった。小さい頃に借金のかたとして娼館に売られたらしい。
ずっと雑用などをさせられていたが、初潮を迎えて客を取るようになったという。
同情したら失礼だと思ったが、それでも同情してしまった。
いつのまにか俺は、その娘に入れ込んでいたのだ。
だが、どんなに入れ込んだところで娘は娼婦。
店に出れば客をとるだろう。
当たり前だが、他の男に抱かれるわけだ。
俺にはそれが耐えられなかった。
転生前、俺は三股をしていた。
だが付き合っている女たちが他の男に抱かれてもいいと思っていた。
俺が三股をしているのに相手に『浮気するな』とは言えないからな。
けど、あの
こんなふうになるのは初めてで、俺は自分自身の変化に戸惑った。
あの
それが叶うなら他の女はいらない。
俺は一世一代の賭けに出た。
娼館でその娘を指名して部屋に入ると、その娘に頭を下げた。
そして『身請けするカネはある』『ブサメンのデブだけど結婚してほしい』と告白した。
呆然とする娘に、さらにこう言った。
『誰も知らない土地に行って、一緒に新しい人生を送ろう』と。
こんなブサメンじゃ無理かもしれない。
無理だろう。無理に決まっている。
否定的な思いに押しつぶされそうになった。
だが、娘の瞳から雫が流れ落ちた。
そして微笑してうなずいたのである。
俺は娘と一緒に長い旅をしてある町にたどり着いた。
冒険者が多く住む町で俺の仕事にうってつけだった。
俺たちはこの町にアパートを借りて住み始めた。
月日は流れ、女の子が生まれた。
俺に似たらどうしようかと思ったが、幸いにも嫁に似ていた。
その頃にはスライムスレイヤーとしても有名になっていて。
ギルドから特殊なスライム退治を任されるようになっていた。
こういう仕事は報酬もいい。
まさに順風満帆の日々だった。
けどある日、俺の前にとてつもない強敵が立ちはだかった。
それは、俺が会いたくて会いたくてしかたなかった魔物。
人を虐げた人間が転生するというブラックスライムだった。
ブラックスライムは、人生に一度出会えるか出会えないか、というスライムだ。
倒せば、ものすごい経験値と、ものすごいカネが手に入る。
今の俺ならブラックスライムを倒すことができる。単独ならばラッキーだが、そのブラックスライムは多くの魔物を引き連れていた。
ブラックスライムの特技は近くにいるモンスターを
まともに戦ったら勝ち目はない。
俺はその場から逃げようとした。
しかし、ブラックスライムの指示が的確だったからか、俺は魔物に囲まれてしまった。
俺は絶体絶命の危機に陥った。
だがあきらめるわけにはいかない。
俺には愛する家族が待っているんだ!
俺は、襲いかかってくる魔物を
しかし屠っても屠っても魔物の数は多いままだった。
俺が死ぬのは時間の問題だった。
ああ、なんでこんなことになるんだ!
ブサメンでも頑張って生きてきたのに。
ようやく大切なものがわかったのに。
それなのに、こんな場所で終わりだなんて!
俺は、死後に会った神様に届けとばかりに叫んだ。
「まだ死ぬわけにいかないんだ! お願いだから助けてくれ!」
俺は泣きながら、生まれて始めて神に助けを求めた。
そんなことしても無駄だとわかっているのに。
ところが突如、天から雷が落ちてきて周囲の魔物に直撃。
近くにいる魔物は1匹だけになった――――ブラックスライム1匹だけに。
今がチャンス! 俺は残りの体力を振り絞ってブラックスライムに駆け寄った。
剣を両手持ちにすると思いっきり斬りつける。
ブラックスライムは悲鳴を上げた。
そして「社畜になるほうが悪いのに、なぜこんな姿に?」と
もしかしたらこのブラックスライムはブラック企業のお偉いさんだったのかもしれない。
俺は死骸を見ながら「社畜にするほうが百倍悪いわ!」とツッコんだのだった。
俺のギルドカードには、多くの経験値とお金が入っていた。
俺は、妻と娘のためにプレゼントを買って自宅に戻った。
妻には素敵なアクセサリー、娘にはクマのぬいぐるみ。
たったそれだけで俺たち家族は笑顔になれた。
スライムスレイヤーまこと 藤原耕治 @haruaki88800
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