第2話 ドキドキ!同居生活!

「ボクの宗教を!もっと信者を増やしたいんです!手伝ってくれませんか!?」


「その前に、聞きたいことがあるんだけど」


「はい?」


「あなたはなんの宗教の神なんですか?まさかこの嘘団体の神なんてことは…」


「いえ、そのまさかです。この宗教の出自がどうであれ皆さんの信仰する存在が具現化してボクが産まれたのです。まさに嘘から出た実ですね。」


「で、どうです?手伝ってくださいますか?」


「嫌だ。お断りします。」


「えっ、なんで!」


嘘宗教の神に布教活動を頼まれるなんて馬鹿な話はない。

私が教会から出ようとすると意外にもシスターは何も止めようとはしなかった。

当てがあるのかは知らないが好都合だ。

もうこんな教会のことなんて忘れて明日からは風俗にでも通い詰めよう。

教会の敷地から出た時にシスターが窓から顔を出して声をかけてきた。


「最後に教えてください〜」


「おとなりのお屋敷にいる人は信者になってくれますかね〜」


シスターが指を刺す方向には村の地主が住む屋敷がある。そこの主人は朝早くから仕事に行っているからシスターが言っているのは留守番を任されている1人のメイドのことであろう。そのメイドがこの宗教に入ってくれるかどうかなんてわからない。だが、主人はもう違う宗教に入っていたはずなので彼がいないうちに勧誘をするべきことを伝えておこう。


「あ〜、シスターさん。今メイドさんは家で1人だと思うからそのうちに済ました方がいいよ。主人には断られるだろうからね。」


「ああ、1人なんですか、それなら好都合!」


そう答えるとなぜだかシスターは不敵な笑みを浮かべてこちらの方に腕を伸ばし手のひらを向けた。

その手が握られた瞬間、私の体は自由を失った。


「えーと、こっちへきてもらえますか?」


私の体はシスターの方へと歩き出した。自分の意思に反して。

シスターが顔を出す窓のところで私の体は歩みを止めた。

シスターは身を乗り出して私の右手を両手で強く握った。

女に手を握られたのは人生2回目である。

だけれどそんな場合ではない。

手を握られた瞬間視界からシスターが消えたのである。

どこに行ったのだろうとか考える前に体に強烈な違和感を感じた。

体の中で大きな虫が動き回ってるようで、とてつもない不快感であった。


「そこのメイドを連れてきます。」


「あなたの体貸してもらいますよ。」


そうシスターの声が聞こえた。

実際は聞こえたのではなく脳内にそう感じたのである。

私は教会の柵を飛び越え、屋敷の塀を軽々とよじ登った。

私の体ではないようだった。

おそらくこの状況はシスターと私が私の体の中で共生しているのだろう。

その事実に少し背徳感のような興奮を覚える。

しかし、主導権はあちらに取られている。

私、及びシスターは窓を割って堂々と屋敷へと侵入した。

シスターは一部屋ずつメイドがいないか確認する。

途中キッチンでナイフを手に取った。

思った通り、シスターはメイドを脅迫して信者にするつもりらしい。

2階の書斎の扉を開けると、そこでメイドは読書をしていた。


「やあ!ちょっといいかな?」


シスターはメイドに声をかける。

私の体で。


「キャッ、あなた、だれ?ご主人様の…お客様、なんて、聞いてない…」


メイドはひどく怯えながらも主人の家を守るため臨戦体制をとった。

いくら、用心棒の役割があるとはいえ

留守番中、大人の男が目の前に現れて声をかけられるなんて思わない。起こり得ないと思うから留守番を引き受けているのだ。


「いい体してるね、くれない?」


「ひいっ!」


メイドはもう泣いていた。

というか私の体でそんなこと言わないでもらいたい。

セクハラなんてゆうに超えて性犯罪である。

しかし、私が考えていることはこれからシスターがすることに比べるとまだマシだった。

シスターは素早くメイドの裏に回って羽交締めにした。メイドの口をこじ開けるとその上顎に手に持っていたナイフを突き立て、刺す。

脳幹が潰れたのだろうか。

メイドの体は力が抜け尿は垂れ流しになった。

メイドは死んだ。

殺したのはシスター。

だが、第三者が見ればどう考えても私だ。

今、私は1人の女の命を奪った。メイドの体にナイフが刺さった時の感覚が繰り返し頭に蘇る。


「よし、綺麗に体は残りましたね。」


シスターはメイドの手を掴んで脈を確認した。小さく、よしと呟くと、また私の体を虫が動き回るような不快感がしたあと私は自分の体を自分で動かせるようになった。


「し、死んだよな、俺、俺の体が、殺して」


メイドの顔を覗き込む。

白目をむいて口にはナイフが刺さったままだ。

メイドの顔を見つめながらこれの言い訳を考えているとメイドは正気を取り戻したかのような顔になって起きあがろうとした。


「痛っ!」


顔を引くのが間に合わず顔がぶつかってしまった。

いや、そんなのはどうでもいい


「えっと、お前生きているのか!さっきはその…、俺じゃないんだ!」


メイドの肩を揺さぶり必死に弁明する。しかしメイドは怒るでも動転するでもなく見たことのある笑みを浮かべた。


「やだなぁ、ボクですよ、わかりませんか?キミの神であるね」


その喋り方は間違いなくあのシスターのものだった。


「嘘だろ…、じゃあやっぱメイドは…」


「信者を集めるって言いましたよね。これは必要があることだったんですよ。」


物事の経緯を彼女は語った。

あのシスターの時には実体がなかった、信者にしか見えない姿だった。信者を集めるのにそれでは不便なこと極まりない。だから体が必要であってメイドを殺して奪った。

私を乗っ取ったりしたあの力は自分の信者にしか使えないらしい。

そんなことを語ったと思う。

聞いてる途中でも私は早くこの女から離れたくなった。


「じゃあ、し、信者集め、が、頑張ってください。さよなら」


「あ、待って!」


今度は待たない。

また、もうあの女になんの感情も抱いていないので信者にしか使えないと言う忌々しい力も働かないだろう。

無視して出ていこうと思った。


「今、キミは殺人犯ですよ?」


「いや、でも、殺したのはお前だろ。」


だがそんなこと村の人たちは信じるだろうか。


「ボクに考えがあります。」


「キミは人を殺したりしていない、殺したのはキミの体です。なら、その体、捨てちゃえばいいんです!」


そう言って、彼女が背後から手を回して抱きついてきた。


「さあ、ボクの中に入ってください!」


バタッと私の目の前で私が倒れた。

今、私はメイドの中にシスターと共にいる。


「さあ!めんどくさいことはこの体に押し付けて逃げましょう!」


ああ、もう何が何だかわからない。

彼女が体を動かすまま、私たちは村を抜け出した。

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信じる私は救われない。 ゆゐけ @yuyuke

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