配達員、異世界でも弁当を届ける

むーが

配達員の受難

 家のチャイムを鳴らし、お客様が出てくるのを待つ。ガチャッとドアが開く。



「ご注文のチャーハン弁当です」



弁当をお客様に手渡す。



「お間違いありませんか?」

「はい。ありがとうございます」



お客様が家に戻って行った。


 スマホで次の注文を確認する。バイクに乗り注文の品を受け取りに店に向かう。


 弁当を受け取り、注文した家に向かっている最中の事だった。


 青信号になり大通りを走っていると、横の細道から車が私の方に飛び出してくる。


 危険だと察知した私はハンドルを切った。しかしバイクごと轢かれてしまう。


 周りに人が集まり騒いでいるようだ。


 体中が酷く痛む。指一本すら動かせそうにない。


 ああ、私は、もう駄目か。弁当、届けられなかったな。


 段々と意識を保つのが難しくなる。ついに意識が途切れた。







 ハッ私は生きているのか……?


 どうやらベッドに寝かされているようだ。


 体を起こし辺りを見渡す。


 どこからどう見ても家だな。そこは病院に運ぶべきじゃないか?


 それに関係しているのか何故か体が痛くない。


 どういう事なんだ、これは。


 困惑している所にノックされる。ビクッと体が反応する。びっくりした。


 だが黙っていても何も変わらない。仕方なく返事をする。


 入りますね、と女性らしき声がした。ドアから入ってきたのは金髪が揺れ耳が尖っている女性だった。



「具合はどうですか? ハイポーションが効いたと思うんですけど」



ハイポーション、だと? なんなんだ、それは?


 だが、この人が治してくれたのは確かなのだろう。まずは礼を言わなければ。



「そのポーションというのは分からないのですが、助けてくれて、ありがとうございました」



女性は目を点にした。



「えっポーションをご存知ないのですか?」



私は何か、いけない事でも言ってしまったのか。しかし言った事を今さら訂正するのも、どうだろうか?


 ……ええい、このまま言ってしまえ!



「はい。存じ上げないですね」



女性はしばらくの間動かなかったが、顎に手を当て真剣な顔でこちらを見つめる。



「本当に、知らないのですか?」

「はい」



途中で目を反らしたくなったが我慢した。


 それにしてもハイポーションとやらは知っていて当たり前の物なのだろうか? 今まで聞いた事がないが。



「ちょっと待っててください」



 女性は立ち上がりドアを開けて、どこかへ行ってしまった。ドタバタと騒がしい音を立てて女性は戻ってくる。手には何やら持っている。



「これは流石に知っていますよね!?」



差し出された物を見たが知らない物だ。


 首を横に振る。



「いえ、分からないです」

「え~!」



後に私はこの世界でも配達員をする事になり、それでちょっとした騒動が起こるのだがそれはまだ先の話。

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配達員、異世界でも弁当を届ける むーが @mu-ga

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