少し不揃いな、でも目を奪われずにはいられない、奇石・妖玉の数々。


 ちょっといい感じのSF短編集を読んでみたいということであれば、カクヨムにも少なからず書き手さんがいらっしゃいますが、ほぼ外れなしの、アイデアも文章も粒よりの短編集となると、なかなか見つけられるものではありません。本作は、多分そんな特級作の一つに数えていいはずの、キレキレの名作集です。
 何がすごいかと言って、その振れ幅。「奇想短編小説の群れ」とはご本人の呼び方ですが、このバラエティーの豊かさは、そんな謙遜気味のキャッチなどにとうてい収まるものではありません。読んでてもう開いた口がふさがらないというか、ぶん回されて貧血起こしそうと言うか。

 海外翻訳もの調のとんがった(でも泣かせる)SFショートショートがあるか思えば、徹底徹尾意味不明ながら妙に文学性を感じる謎掌編もあり、文学修辞法のサンプルみたいな実験小説が出てきたかと思えば、バカ話のお手本みたいな大笑いできる日常コメディも入ってます。幕の下ろし方が絶妙な短話、ギリギリのメンタルで血を吐きつけるような幻想譚、結構ガチな怪談も。

 全体的に不条理系の、言葉遊びっぽい話が多めの感はありますが、文章自体がどんなスタイルの時でもとても洗練されているので、単純に読んでいてひたすら心地いい。

 あんまりこんな言葉は使いたくないんですが、「全身チーズ人間のプロポーズ」を読んだ時は、この人は天才かと思いました。経験積んで数をこなしても、こういう文はそうそう誰にでも書けるもんじゃないなと。

 読み書き歴の浅い方はもちろんのこと、もっと歯ごたえのある作品はないんかっ、と、日頃不満をお抱えの読み専の方にもぜひお勧めしたい一作。

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