ユーレイ
この島に来て、しばらく経った。
ここにはコンビニもない。もちろんビルなんてもってのほかで、いくつかの自動販売機はその役割を果たせておらず、塗装も剥げてボロボロになっている。
でも、穏やかな島の雰囲気にも慣れてきて、ご近所さんも優しい。学校でもまあ何とか過ごせていて、壮也も元気だ。
「なあなあ、知ってる?ここ数年ずっと噂になってんのよ、出るらしいぜ、ユーレイ。」
おいおいまじかよ。幽霊?
「真夜中、浜辺にふらっとオカリナを吹いているらしいぜ。近所のおばちゃんが見たってはしゃいでた。でもすぐ消えてしまったと。」
「なぜにオカリナ?」
「この島の特産品はオカリナだろ?」
ほうほう。知らなかった。
「それって、ただの人間なんじゃ…」壮也がムッと眉間にシワを寄せる。
「ユーレイとかのほうがロマンがあるだろ?」
ロマン……?まあ、いっか。どうせ幽霊なんていないに決まってる。そういうのは信じてない。
そしてその日の夜。
僕は寝る前に飲んだコーヒーのせいで眠れず、目がギラギラだった。決して壮也の話が怖かった訳では無い。
もうだいぶ波の音にも慣れた。でも、今日は違う音が聞こえてしまった。
そう。
フォー ホー …フォー
オカリナの音色が。
怖いというより、自分の目で見て確かめたいと思う気持ちが強く、俺は静かに家を出て海へと向かった。
真っ暗でほとんど何も見えないが。月夜の明かりを頼りに海を静かに歩く。
音を頼りに探す。
オカリナの高い音が月夜にこだまする。
すると、満月の見える真下にいた。大きな岩の上で座りながらオカリナを吹く少女が。
影でしか見えない。もっと近くで見てみようと静かに歩み寄る。
フォーーーーピィーーフォー
この歌はなんだっけ。聞いたことがある気が…
バシャッ
あ、やばい。前に夢中になっていたせいで海に足が浸かってしまった。その音で彼女に気づかれた。
「あ、待って!ねぇ!」
速い。足が。軽やかに走り去っていく。
追いかけるのは無理だとわかり、彼女が座っていた岩の近くを見てみる。
片耳だけのイヤリングがあった。暗くてよく見えないので拾って家へと帰った。
電気をつけてよく見ると、光に反射して虹色に光る花形の小さなイヤリングだった。
「どうすりゃいいんだか」
俺は深くため息をついた。
マーレの思い出 うたたねプリン @utatanepurin
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