第5話 神さまとの戦いは続く!?

「それじゃあ、対処法なんだけど……」

「対処法とかあるのっ?」

「あぁ。とりあえず蚊取り線香を買うんだ」

「蚊取り線香ぉっ?」


 突拍子もない言葉に、タカ兄の前なのに変な声を上げてしまった。マジで神さま許すまじ。


「寝る前に枕元に蚊取り線香を置くと、大抵の神さまは追い払えるんだ」

「神さまなのに蚊と同レベルなの!?」


 想像以上に適当だけど、やけに現実的な対処法だ。


 それにしても、神さまをを虫扱いとは……やっぱりここのアパートの住人の感覚はどこかずれているというか、図太い。この対処法を思い付いた人も、それを信じて広めた人たちも。


(まぁ、蚊取り線香を置くだけで追っ払えるなら安いもんだ)



 その後、早速対処法とやらを実行するべく、タカ兄と共に近くのスーパーで蚊取り線香を買いに行った。



 そして言われた通りに寝る前に設置したのだが、かなり効果はあった。

 朝起きて確認すると、いつもよりも被害が大分減っていたのだ。


 そこで、蚊取り線香をもう二つほど置いた。そして見事、効果は倍増した。『神さま』たちの姿はちらほら見かけるものの、数日前のように悲惨な事件が連発することはなくなった。完全になくなったわけではないけど。


 だけど、にはどうしても効かないようだった。






  ***






 目玉焼きを作ろうと、フライパンを出したら、また巨大トカゲが現れた。今度はいつの間にか足元を這いずっていたので、どこから現れたのかは分からない。


「ふんふんふーん……よ。ふふふーん」


 鼻歌を口ずさみながら、チラリとトカゲに目をやる。軽く挨拶してやったわたしはめっちゃ偉いと思う。


 卵をフライパンの上に落としたところで、またトカゲを見る。


 既に消えていたり部屋をのろのろとうろついていたりと、遭遇した時の状況はその日によってまちまちだ。今日はまだ居座っていて、とろくさい動きで部屋の中を這いずっている。


(相変わらず平和なやつ……)



 このアパートに住み始めてから、二週間ほどが経った。


 朝、フライパンを使っている時に、巨大トカゲの姿を目にすることが日常になりつつある。わたしもいよいよおかしくなってきたな。



(ていうか、いつも何しに来てるんだろ)


 もしもし亀さんの如くのろのろと、なんの目的もない様子で部屋中をうろつき、時々チロチロと舌を出す。

 見慣れたからというのもあるが、最近、その動作が可愛く見えてしまう。うん、やっぱ重症だなわたし。


(ぶっちゃけ、何も考えてないかもだけど)


 別に、あいつを特別扱いしているわけではない。他の神さまと違って害がないから、ひとまず放置しているだけだ。

 それに、やはり最初に見た時のインパクトが大きい。フライパンの上で寝る巨大トカゲなんて、きっとここを出たら見ることはないだろう。


「……ちょっとトイレ」


 ふとそう呟き、火を止めて台所から離れた。

 ちなみに今更だが、独り言が多いのは別に寂しいからとか、話す相手が欲しいからとかではない。元からこういう癖なのだ。


 何やらトカゲが移動し始めたが、ちょっと離れるくらいなら問題ないだろう。今までが無害だったので、この日もそう判断したのだ。




 しかし神さま、されど神さま。

 

 やっぱり油断は禁物だった。




 ムシャ ムシャ ムシャ


「…………」


 食べてる。


「…………」


 もりもり食べてる。


「…………」


 目玉焼きをもりもり食べてる。


「…………」


 トカゲがフライパンの上で、目玉焼きをもりもり食べてる。


「…………」


 ムシャムシャムシャムシャ 



「――――てんめぇええええええ!!」



 ふざけた神さまを排除しようと本能的に殺虫剤を手にする。

 わたしの殺気をいち早く察したのか、目が合った瞬間、クソトカゲは目玉焼きと一緒に消えやがった。


「どちくしょうが!! 玉子だって馬鹿にならないのにいいいい!!」


 無害だろうと高をくくって、あまつさえちょっと可愛いなんて思ったわたしが馬鹿だった。ただ目玉焼きを狙ってただけじゃねーか、あいつ。


 今度からは、神さまが視界に入ったら徹底的に排除しよう。そう胸に固く誓った。




 神さまとの戦いは、まだ始まったばかり……わたしの新生活を返せ!!



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神さまだらけのアパート 片隅シズカ @katasumi-novel

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