第52話:エピローグ「冒険」
「――はい、それではこちら四人分の白金級プレートになります!」
どこか嬉しそうな受付の人がカウンターに四枚の白銀に輝く金属プレートを取り出した。
「おぉ! すげぇな、これが白金級か!」
「良い色してますね……きれいな反射です」
ライツとレイラルは、それを持って嬉しそうに眺めていた。
銀色にも見えるが、銀よりも白く、濁っていない。
時折反射する色も、虹が混じっているように見える。
俺は受付の人に呼び出されてここに来たのだが――どうやら、話というのは白金級への昇格だったらしい。
白金級への昇格自体は、わざわざ呼び出されるほどのものでもないはずだが、ドラゴンの討伐、という一大イベントで昇格したせいで注目されているようだな。
「ありがとうございます」
一方、そんな二人をよそにミレイルさんは感謝を述べて静かにそれを受け取った。
「すごいですね。最近急進中だとは聞いていましたが、まさかドラゴンを討伐してしまうなんて!」
「おうよ、うちのメンバーは全部粒揃いだからな!」
「粒とは言っても、かなり荒い粒ですがね」
嬉しそうに言うライツに、レイラルがフッと笑って皮肉気味に返した。
「一言余計だバカヤロー」
「あいてっ、何するんですか!」
ライツが小突いて、レイラルも言い返す。
まあ、いつも二人はいつも通りで安心した。
「あ、あはは……メンバーのお二人はいつもとおりですね」
「そうですね――でも、賑やかで私は楽しいですよ」
困惑気味の受付さんに対して、ミレイルさんは微笑んでそう返した。
「あ、それとドラゴンの報酬に関しては、まだ精算ができません。こちら側ではある程度精算できましたし、だから料理を出せたんですが……でも、まだ多くは国側にありますからね」
「そうですか……まあ、ドラゴンは貴重資源ですししょうがないですね」
レイラルは残念そうに肩を落とした。
「もしかしたら今回の功績でお貴族様からの呼び出しなんかもあっちまうかもな?」
「そうですねー、でも私は正直あまり気が進みませんね……静かに終わらせてくれると助かるんですが」
ライツの言葉に、ミレイルさんが憂いた表情で呟いた。
「何を言ってるんですか! 今まさにこの『蒼天の四翼』の名を世界に轟かせる時です! 怖気づいてはいけませんよぉ!」
「それじゃあ、レイラルさんが広報担当ということで……任せましたよ!」
どことも知らない天を指差すレイラルに、ミレイルさんが笑顔でそう返した。
「あ、あれ……?」
「ふふっ、冗談ですよ。でも、あまり有名になるのは好きじゃないのは本当です。レイラルさんがそうなら、別にそれも構いませんが」
困惑するレイラルに対し、ミレイルさんが微笑んでそう言った。
「……それじゃあやっぱりやめておきます。パーティーな以上、みんなの意見が重要ですし、私も好き勝手やる訳にはいきませんから」
レイラルが肩をすくめてそう返した。
「そうですか? ありがとうございます」
若干驚いたようにしつつも、微笑んで感謝を述べた。
「あ、それとドラゴンに関してですが、もしかするとドラゴンの討伐を称えたパレードが行われるかもしれません。確定情報ではありませんがね」
すると、受付さんがそう教えてくれた。
パレード、か。
「へぇ」
ライツはそう言って鼻を鳴らした。
少し意外だ、ライツは結構食いつくと思ったのだが。
「興味なさそうだな。嬉しくはないのか?」
「まあ、俺は別に名声に対して興味はねぇからな。楽しかったらそれでいい――つか、お前も興味なさそうだろ」
俺が聞くと、ライツは本当に興味なさげにそう返した。
「――そうだな。大体似たような理由だ。このメンバーで冒険者やってけて、最低限稼いで生きてけるならそれで十分だ」
その言葉に、俺はふっと笑ってそう言った。
「皆さん謙虚ですねー。ともかく、その他の処理などは後ほどということで、本当にありがとうございました!」
「おうよー」
勢いよく頭を下げた受付さんに、ライツはひらひらと手を振ってカウンターの前から去った。
「今回の祝勝会、だいぶお金をじゃぶじゃぶ使いましたから、結構くれないと採算取れませんよね」
「まあな。俺も問題ない範囲には留めてるが、報酬がないことには少し厳しくなるな」
レイラルの言葉に、俺は財布を取り出し、中身を見て言った。
大体十枚強くらいだろうか。
まだあるが、多いとは言えないな。
「ああ、俺もほぼ無一文だな」
「あっ、私も飲みすぎたのでちょっと……」
同じく二人が財布を眺めながら呟いた。
「そうですねぇ、飲みすぎてましたもんねぇ」
そんなミレイルさんに、レイラルがニヤニヤと笑いながら詰め寄った。
「あ……あれは忘れてください!」
頬を赤らめたミレイルさんが叫んだ。
今朝のことだが、ミレイルさんは酔った自分の様子を完全に忘れていたらしい。
超ハイテンションだったこともそうだし……ついでに、レイラルには俺にやたらくっついていたことも言及されていた。
俺としても正直話題には上げてほしくないのだが、やはり本人からしてもとても恥ずかしかったらしい。
「ま、まあ色々溜まってたんだろうしミレイルさんのあれもしょうがないだろ」
「そ、そうですよ!」
「そうですかぁ? しょうがないですねぇ、じゃあそういうことにしてあげますよ」
腕を組んでレイラルがニヤニヤと笑いながら言った。
「あ、それとデイスさんも別に呼び捨てでいいですよ。もうパーティーを組んでから随分経ってますし――それに、助けてもらったのに敬称は必要ありません」
ミレイルさんはふっと笑ってそう言った。
でも、ミレイルさんだって敬称付けてるしな……
「そうか? ……あ、そうだ、じゃあミレイルさんも敬称外してくれよ。そしたら外す」
と、俺は思いついてそう提案した。
「いや、だって今も付けてるじゃないですか! それはズルですよ!」
しかし、彼女はそう言って引き下がる。
それなら――
「……じゃあ、ミレイル」
「……じゃあ、デイス。よろしくお願いします」
俺が言うと、
「――えぇ⁉ 一体全体なんなんですか⁉ 夫婦なんですか⁉ 見せつけるとはいい度胸ですねこのヤロー!」
数秒の後に、レイラルが俺に掴みかかってきた。
「だぁーっ! お前はうるさいな!」
若干こみ上げてきた恥ずかしさを殺すようにしながらレイラルをあしらい、俺は叫んだ。
「この前も保護者とか言われてたしちょうどいいんじゃねぇか?」
すると、真顔でライツが言った。
そういえば、そんなこともあったな……
「なんか傍観者風にしてるが、ライツだってどちらかと言えば保護される側のポジションだと思うぞ?」
「……い、言うようになったじゃねぇか、デイス」
唐突に俺から向けられた矛先に、引きつった笑みを浮かべながらライツが答えた。
「『蒼天の四翼』の皆さーん! まだいらっしゃいますかー!」
すると、またもや受付さんの声が響いた。
「よ、呼ばれてるみたいですよ! 行きましょう!」
声が上ずったミレイルがそう言ってみんなを先導した。
それにしても、なんの呼び出しだろう?
◇
「――ほ、報酬がこれだけ⁉」
ジャラジャラと音の鳴る
報酬は、金貨十八枚。
この前のワイバーン討伐より少し上程度の量だ。
確かに多いは多いのだが、ドラゴン討伐のそれと考えると少ないような気がする。
「は、はい……申し訳ありません。どうやら、国側からの報酬があまり出なかったようです。そもそも、国側からしたらわざわざ冒険者にお金を払う必要がありませんからね……」
受付さんが申し訳なさそうに言った。
「そうだったのか……まあそれもそうなのか」
もちろん、冒険者という勢力だってバカにはならないし、信用やこれからの素材採取のことを考えると与えないというのもよくないが――それでも、わざわざ大金を用意するほどではないのは確かだろう。
「加えて、今回皆さんは確かにスタンピードを止めたことになりますが、言ってしまえば全て皆さんの独断、つまり私利私欲の行動になります……そういった部分も、国からは評価されませんでした」
続けて、受付さんが渋そうな表情で語った。
「……協会からの報酬もあると思うのだが、そっちはどうなんだ?」
「えっと、独断であるということがやはり協会から見てもあまり良いことではなかったらしく……先程の二十枚で全てということになります」
俺が訊くと、受付さんが申し訳なさげにそう言った。
「えぇ⁉ なんですか! 私たちの英雄的行動が――」
その言葉に、レイラルが食って掛かった。
「よせレイラル、事実だ――はぁ、もしかしたらとは思っていたが、まさかこんな災難があるとはな」
俺は焦るレイラルを制止して嘆息した。
祝勝会のときにも聞いた。
事実、言ってしまえば俺たちは自分たちのメンバーのために行動して、それが結果的にスタンピードを止めるのに役立っただけだ。
ドラゴンを討伐した、といえば聞こえはいいが、もし討伐できなかったとしたら、俺たちはただ混乱を招いただけの大悪党だ。
これも仕方がないことだと言えるだろう。
普通の人間からすれば俺たちはドラゴン討伐の英雄。
だから普通の人間は俺たちを担ぎ上げるが、組織ともなると公正な判断をくださなければいけない。
もちろん、民衆の声にも従って多少の報酬は出たが、それでもドラゴン討伐の報酬と考えれば異様に少ない。
「ま、まあそうですが……」
俺の言葉に、レイラルも納得したようだ。
「た、確かによく考えればそれもそうですね……どうしましょう。私もお金はあんまりありませんよ? 私の杖も若干傷ついていますし……」
「お……俺もねぇ。つか協会にツケてるからマジでやべぇ」
ライツが珍しく焦った表情を浮かべている。
「借金してたのかよ……」
「だってドラゴン討伐なんだから大量に報酬出るって思うだろ⁉」
ライツの悲痛な声が響いた。
「分かります……私もそうでしたしねぇ。まだあると言えばありますが、私の杖と、デイスさんの斧、ライツさんの剣の修繕を考えるとすぐになくなってしまいそうです――どうしましょう?」
レイラルが不安そうに呟いた。
――どうするって、冒険者なんだから答えは一つだろう。
「――まあでも、冒険者なんですから、やることは一つですね?」
と、ミレイルも同じ結論に至ったようだ。
「ああ、そうだな。せっかくドラゴンを倒したから休みを――と思っていたが、どうやらまだまだ冒険は続きそうだな?」
ニヤリ、と笑って俺は言った。
まあ正直、休みも悪くないがこのメンバーで依頼を受けるのだって俺は好きだ。
「はぁー、確かにそうだな」
続いてライツも笑顔でそう言った。
「まあ、我々がお金を稼ぐと言ったら依頼しかありませんね」
「もう既に結構な冒険はしましたけどね……まあ、お金のためならしょうがないですね」
レイラルも嬉しそうに笑って答えた。
「おお! いいですね! これぞ冒険者って感じです!」
受付さんが興奮した様子で俺たちを眺めていた。
「それじゃあ依頼掲示板でも見にいくか――!」
〜完〜
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
色々と拙い作品でしたが、なんとか毎日更新のまま完結までこぎつけることができました!
クオリティが高い作品だった、とは言えないと思いますが、もし楽しんでいただけたならとても嬉しいです!
とは言っても、私自身は書いてて超楽しい作品ではありましたがね。
特に彼ら四人の会話を考えるのはとても楽しかったです。
あ^〜蒼天の四翼てぇてぇ。
……冗談はさておき。
今回で蒼天の四翼、その四人の結成、そして成り上がりの物語は一度終了となります。
しかしながら、言ってしまえばこれはただの第一章。
まだまだ、彼らの物語は続きます。
もしこの作品が受賞したりぃ、評価が高かったりぃ……あるいは私の気が向いたりしたら、また更新が始まると思います。
次章のストーリーの始め方自体もいくつか考えていますし、公開できていない設定も山ほどあります。
しかしながら、無駄だと感じている設定も多く、前述の通り拙い、つまり改善点も多いと感じている作品ですので、それら全ての設定を公開することはないと思います。
そんなこんなで、次章すら始まるか怪しい作品ですが……それでもイイヨ! という寛大な方は感想やレビューで催促でもしていただければなと。
もし『面白い!』や『いい話だった!』と思ってくださった方は、青い星をポチポチポチッと三つ押していただけると非常に嬉しいです!
最後までお読みいただき本当にありがとうございました!
(近況ノートに作者からの感想を書いています。気になる方はお読みください!)
心優しき狂戦士 空宮海苔 @SoraNori
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