第51話:勇者のケジメ

「……はぁー、大変だった」

「そうですねぇー、大変でしたぁ」


 隣を歩いているレイラルが呑気に言った。

 俺の背中には、泥酔して眠っているミレイルさんが乗っている。


「お前のせいでな!」

「おう、大変だったな」


 少し顔の赤くなったライツがニヤッと笑って言った。


「マジで何もしなかったよなライツは……」

「まあそのまんまの方がおもしれぇかと思ってな」


 ライツはそう言ってくつくつと面白そうに笑った。


「……はぁー、まあ別にいいけどよ」


 俺はため息を吐きながらも、口には笑みが浮かんだ。

 まあ、こうやって馬鹿騒ぎできるのも幸せだからなんだろうな。


 と、俺が夜道を歩いていると、見覚えのある人物が視界に入った。


「あ――おい、セイズ!」


 俺はその名を呼んだ。

 すると、彼は振り返って俺の方を見た。


 目の下のクマも取れ、憑き物が落ちたような顔をしている。


「よう、デイス」

「お、あんた勇者サンか。あんときはありがとよ」


 すると、セイズに向かってライツが笑いかけた。


「……素直に礼を言うんだな」


 その言葉に、セイズは驚いたような表情を浮かべた。


「お前の過去のことは別に知らねぇ。それが悪いことなら、俺はハッキリ嫌いだって言ってやる。だが、今回のことは助かったから、礼を言うだけだ。カンタンだろ?」


 ライツはニヤリと笑って言った。


「ふん、単純だな。楽しそうで何よりだ」


 言葉には棘があるが、セイズの表情には笑みが浮かんでいる。


 ちら、と横を見ると、微妙そうな表情をしたレイラルが居た。

 未だにセイズがどんな人間なのか掴めずに居るのだろう。


「ええまあ、私からもありがとうございます」


 そんな中、困り顔でレイラルは感謝を述べた。


「別に礼を言う必要はない。俺が好きでやっただけだからな――だが、感謝の気持ちは受け取っておこう」

「――そうですか、どういたしまして」


 どこか冷たいレイラルがそう返す。


「それで――聞きたいことがあるんだが、お前はなんで一人なんだ? それに、なんでわざわざ俺を助けに来たんだ?」

「ふん、知りたいのか?」

「ああ」

「しょうがないな、じゃあ話してやろう――」


 セイズはそう言って、一部始終を語った。


 俺を追放してからの話、俺を追放して後悔したこと、そして俺のやっていたことに気づいたこと、上手く行かなくなったこと、そして勇者パーティーは解散したこと。

 自分のプライドが傷つけられたところに、俺がドラゴンを倒しに行ったと聞いて、俺を助けに来たこと。

 ――多分、周りの評価がコイツの高いプライドを作ってしまったのだろう。


 そう考えると、セイズもある意味ギフトというシステムの被害者なのかもしれない。


「……そんなものだ。十分か?」


 話し終えたセイズが、腕を組んでそう言った。


「まあな――それで、これからはどうするんだ?」


 俺はそれに納得して、セイズに訊いた。


「そうだな……冒険者でもやめて、田舎で畑仕事でもしてみようかと思う」

「あの勇者ともあろうお方がですか?」


 レイラルが不思議そうに聞いた。


「何か悪いか?」

「いえ、別にそうではありませんが……」


 微妙な表情をしたレイラルが返した。


「俺は自分が勇者だからと驕っていた――だから、一度初心に戻る。俺たちのこの街での生活だって、全て農民や比較的地位の低いものが肉体労働をしてこそ送れるものだ。俺たちだって地位が高いとは言えないが、それでも十分『街』という場所で文化的に、幸せに暮らせている――俺はそんな人のために汗水垂らして働く人たちの仕事を見ていたつもりだったが、体験したことはなかった。勇者だなんて偉そうにする前に、この世界がどうやって回っているのか知るべきだと思ったんだ」


 すると、セイズがそう説明した。

 世界の回り方――か。


 もちろん、俺たちだって街や国の平和に貢献する職業であり、産業にもある程度貢献する職業ではある。

 だが、だからといって農業、生産業、そういったことを生業とする人たちの存在なくしては不可能なものだ。

 だから、一度それを知るために体験する。


 いい考えだ、と俺は素直に思った。


「……そうか、お前なりの考えがあるんだな」

「ああ、もちろんだ」


 俺が言うと、セイズはふんと鼻を鳴らし、腕を組んでそう答えた。


「まあ、安心したよ。俺もお前も、頑張ろうな」


 俺は最後に、笑って言った。


「そうだな――じゃあ、さらばだ」


 セイズはそう返すと、身を翻した。

 俺も目的地に向かおうとした時、セイズの声が響いた。


「ああそうだ、良い忘れてたことがある」

「なんだ? 嫌味か?」


 俺がおどけて言うと、次に放たれたのは予想外の言葉だった。


「――すまなかった。それと、ありがとう。それではな」


 セイズは深々と頭を下げ、特に表情も変えないまま去っていった。


 俺は少し漠然ばくぜんとする。

 まさか、セイズが謝るなんて。


 ――アイツも、変わっているということなのだろう。


「……まあ、悪い人じゃないんですね」


 どこか不満げなレイラルが、その背を見つめて呟いた。


「まあ、な」


 俺もふっと笑ってそう返す。


 〜あとがき〜


ミレイル「あぁー、頭が痛いです……」

デイス「昨日めちゃくちゃ飲んだもんなぁ」

ミレイル「色々あったので、もう全部忘れて楽しくやりたかったんです……実際楽しかったですけど、詳細に何があったかは忘れちゃいましたし、頭痛が酷いです……」

ライツ「おぉ? じゃあ祝勝会途中のことも全部忘れちまったのか?」

ミレイル「えぇっと……一応は覚えてます。ちょっとハイテンションで騒いでたということだけは」

デイス(ちょっと……?)

レイラル「ほう、残念ですね。デイスさんとの惚気やら、あの超ハイテンションなミレイルさんも記録しておきたかったのですが……」

ミレイル「えっ⁉ 惚気なんて……いつあったんですか! というか超が付くほどハイテンションだったんですか⁉」

ライツ「まあな」

ミレイル「えっ……デイスさんは? どうでしたか?」

デイス「……まあ、凄かった。テンションは本当に」

レイラル「ついでにやたらデイスさんに張り付いてましたねぇ〜?」

ミレイル「し、死にたい……」


 なんと本日は豪華二本立てです。

 ……実は一日だけ、毎日更新が途切れてしまったことがあったので、それの埋め合わせみたいなものだと思ってください。


 それと、私がもう投稿が待ち切れなくなってるだけです、エエ。

 実は下書き自体はもう最後まで書き終わっているのです。

 推敲作業も何回かしており、既に出せるレベルではありますが、それはまた明日ということで。


 さて、次回はついに最終回。

 ぜひお読みいただけると嬉しい限りです。

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